Act.1-1 PLEIN SOLEIL
KEEF


 ユリには、四歳上の兄がいる。ユリは、自分がいつごろからその兄のことを想いはじめたのか、もう覚えていない。ふと気づいたら、兄のことを愛していた自分がいた。
 思い出さなくてもいいことだった。今、彼女は自分が兄を愛しているのと同じくらい、兄から愛されていることを、実感として知っているから。

 心だけではない。身体の全てで、妹は兄を愛し、兄は妹を愛した。それは、お互いが最も望んだ、しかも彼らにとっては唯一の愛の確認の方法だった。
 ユリが最も嬉しいのは、この禁忌の愛を、兄が受け入れてくれたことだった。妹から兄への狂おしいほどの想いを、軽蔑することも無く、その逞しい腕で包んでくれた。

 長い三つ編みに纏めたブラウンの髪を手に取り、目の前に持ってきてそれをいじりながら、ユリはふとアルバムに目を留めた。
 家族全員で写した写真は、一枚しか残っていない。そのアルバムに納められた写真の殆どは兄―リョウ―と一緒に写したものだ。
 ユリが六歳のときに母は世を去り、父は姿を消した。深い思いはあるけれども、二人はユリにとっては霞に近い存在であった。ユリにとって家族とは、人生の殆どを共に過ごしたリョウだけであるといってよい。ユリにとって、リョウは兄であり、父であり、母だった。彼が全てをくれたのだった。
 感情も、人生の経験も、物質も、そして、愛も、自分自身も。

 ユリは、懐かしい写真を優しく指でなぞりながら、優しい四年前の記憶をたどり始めた。兄が、初めて彼女のことを愛してくれたときの記憶を。