ユリとリョウが初めて結ばれた日は金曜日だった。その翌日からの二日間、土曜日と日曜日のことを、ユリはほとんど覚えていない。
 この二日間、二人はまるで磁石のS極とN極のようだった。言葉を交わさなくても、身体が近づけば自然と意識も融合して快楽を貪った。
 そんなに大きな住居ではない。キッチン、ダイニング、バスルーム、そしてトイレと、あらゆる場所であらゆる体位で、それが当然のように二人はセックスに夢中になった。
 この二日間……ユリは月曜日から学校があるので、日曜日の夕方からはリョウがユリの体調を心配して遠慮したので正確には一日半だが、ユリは何度失神したのか覚えていない。むしろ、兄が与えてくれる激しすぎる快感の波に抗いきれず、意識を失っている時間のほうが長かった。
 リョウは一日半でユリの膣内に10回射精したが、そのほとんどをユリは自分の意識で感じることが出来なかった。当然、自分が何度絶頂を迎えたか、など数えられているはずも無い。
 特に立ちバックで貫かれた時は激しかった。リョウに腰をつかまれ、逃げることのできない状態での力あるピストン運動は、膣から脳天まで突き抜けるような快楽の痺れをユリに与えた。ユリが兄に「犯される」ことの喜びを知ったのはこのときだったかもしれない。

Act.1-13 VOICE
KEEF

 月曜日の午前6時、ユリはリョウが目覚める前に食事を用意し、早めに学校に行く旨の置手紙を残して家を出た。
 はっきりと我に返ると、恥ずかしすぎて兄の顔など見られたものではなかったし、兄の顔を見るとどうしても抱かれたくなる衝動が身体を突き抜けてしまう。
 さすがに学校の前にセックスをして足腰立たなくなるわけにもいかない。
 二人の若い性衝動は、まだ限度というものを知らない。一度始まると、精も根も尽き果てるまで続けてしまうのだ。それこそ日常生活にも支障が出てしまうほどに。
 リョウもユリも、苦労性が身についてしまっているせいか、そこまで欲望に身を任せることはできなかった。底のほうで、二人とも臆病なのだ。果てしなく快楽に身を任せているようで、きちんと時と場所を弁えているとも言えた。

 ユリの通う学校は、エールランドミドルスクールという、郊外の私立校だ。元々はサウスタウンのダウンタウンにある別の学校に通っていたのだが、経済的に余裕ができたことと、ユリの身の安全を心配したリョウが、より治安の良い区域にある学校への転校を勧めたのである。

 アメリカの学校制度は日本のものとはだいぶシステムが異なる。
 アメリカでは「学年」のことを「グレード」と呼び、日本では小学1年〜高校3年にあたる12年間がグレード1〜12になりアメリカの義務教育期間となっている(一般的にはこの義務教育期間はK-12と呼ばれる)。
 基本的にグレード1〜5が小学校、グレード6〜8が中学校、グレード9〜12が高等学校にあたる。つまりユリは現在、グレード8を半分終えたところなのだ。

 正直に言えば、ユリは以前の学校に未練が無いわけでもなかったが、これまでリョウの言葉や提案が間違ったことは無かったし、その勧めには素直に従った。
 現在の学校は規律は適度に行き届いているし、そんなに堅苦しいわけでもない。自身の社交的な性格が阻害されることもなく、ユリは無事に多くの友人を作ることが出来ている。
 それに、嬉しい誤算もあった。以前の学校の時の親友が一人、ユリを追いかけてエールランドに転入してきたのである。
 エレン・バークマンというその少女は、ユリと同じく明るい性格で、友人を作るのが上手い。また自分の長身とスタイルにかなり自信を持っており、今の学校に転入してからはまた卵ではあるがモデルとしても活動を始めていた。
 ユリはエレンの転入に心底驚き、「どうして?」と理由を尋ねてみたら、「前の学校に飽きた」という予想外の回答に驚きを上書きされてしまった。
 ただ、学校に飽きたからと言って、学業を放り出してドラッグをついばみながらアウトローを気取る性格でもなかった。
 明るく自由気ままに見えて基本的に真面目。ユリとエレン、この二人は似ているのだ。だからこそ気があったのであろう。
 この二人は常にクラスの中心にいた。二人の周りには自然に人が集まった。
 もちろん、それを面白からざる表情で見ている者もいたが……。

 そのユリは、いつもよりも一時間早く学校についたが、なにかを積極的にする気にもなれず、心ここにあらずという表情で窓の外を眺めていた。
 始業時間が近くなり、いつもどおり生徒たちが集まって席につき、授業が始まってもそれは変わらなかった。テキストは開いているものの視線は窓の外をふらついている。まるで集中できていなかった。
 ユリが静かなので、休憩時間の教室の音量はいつもの六割ほどだった。何人かが心配して、何人かが興味深くユリに話しかけたが、ユリは気の抜けた返事を一言返すのみで、窓の外を眺めながら呆けていた。

「お兄ちゃんはどうしてるだろう」

 ユリの頭の中はほぼそのことで一杯だった。快楽だけに支配された一日半の直後だから、今日ばかりは仕方がないが、窓の外をぼうっと見ても思い人が映るわけでもない。
 そして結局は「今晩も……」と思考を進めて、そこで思考停止してしまっていた。  これまでは「お兄ちゃんが好き!」という、空中に色のついた煙をまいたような「願望」だった。それが、「事実」という形で夢がかなってしまった。
 あとは、まだ真っ白なユリ・サカザキというキャンパスに、兄がどのような絵を描くのか。
 その点については、ユリはまったく心配していない。ユリは「兄なら奇妙奇抜な絵は描かないだろう」という全幅の信頼を寄せているし、自分の「趣味」にもうすうす感づいてもいた。
 自分は、とにかく兄から強引に扱われるのが好きなようだった。兄が自分を強引に扱うことが好きかどうかはまた別の問題だが、できれば兄の好きな場所で、兄の好きな体勢で、兄の好きなように「扱って」欲しかった。
 それが一般的な人の好むセックスではないことも知っていたが、自分のことを知ってしまった以上は、この「欲」を兄と共有したかったのだ。

 その時、誰かが強めにユリの肩を揺らした。さすがのユリも我に返って脇を見ると、親友のエレンが二階の教室の窓の下を覗いている。気づくと、自分の周りにいた数人の女生徒が全員、そちらに目を向けていた。
 ユリが窓の下を見ると、自分たちと同じくらいの年齢であろう女性が、ユリをにらみつけていた。ウェーブのかかったややくすんだ金色の長い髪に、少し目尻が下がった青い瞳を持っていた。
 その少女が、人差し指をユリに向けて折り伸ばしを繰り返している。どうやら、「ユリに降りてこい」と言っているようだ。
 にらみつけられた方は、少し怯んでエレンに耳打ちする。

「……あれ、誰? 凄く睨まれてるみたいなんだけど」

「ああ、ユリは知らないのか。シャーリー・ハービンジャー。私らの一学年上で、ちょっとした有名人だ」

「どんなふうに?」

 エレンの声が少し低い。何か「面倒くさそうなことをわざわざ説明させるな」という雰囲気を出しているが、それでも空気は読んだ。

「一言で言えば、なんでも自分が一番でなきゃ気が済まない、面倒なお嬢様。なかなか激動の人生をおくってるらしいけど、その話の大半は大げさな嘘だっていう評判よ」

 ユリも、少しげんなりした。自分で表情が崩れるのが分かる。誰にも話しかけれたくないこんなときに、どうも面倒そうな先輩に目をつけられてしまったらしい……。
 どうやら自分を呼んでいるようだし、放っておいてはこれまた面倒なことになるだろう……。

「なにか分からないけど、呼ばれてるみたいだし行ってみる」

「自分から「猫の足を使って火の中から栗を取り出すTake the chestnuts out of the fire with the cat's paw.」こともあるまいに。健闘を祈る」

 口ではそう言いながらも、ユリを心配してエレンと数人がついてきてくれた。
 シャーリーは最初からユリに対して敵意を隠そうとしていないようだった。よく見ると美人の範囲には十分入るだろうが、今は目元と口元に剣呑な皺が寄ってしまい、あやうくその範疇から逸脱しかけている。
 ただ、シャーリーがお嬢様なのは本当のようで、かなり身なりのよい服装をしていた。高潔な人格が身なりについているかどうかは、今のユリには分からない。
 二人は校舎裏の中庭に移動した。分かりにくいように、エレンたちが物陰からそれを追う。人目がないのを確認したミス・ハービンジャーはいきなりユリを怒鳴りつけた。

「ミス・サカザキ、あなたの醜さを見かねて忠告します。今のように、嘘の悲劇の猫をかぶって周囲の注目を集めるのは、いい加減やめてくださる!?」

 一瞬、ユリは顔を呆けさせた。

「ミス・ハービンジャー、私はあなたが何を仰っているのか分かりません」

 シャーリーは自分の中で少しずつ怒りが上昇しているようで、言葉も高い温度に支配されている。

「わからない? これは思ったよりもずうずうしい娘なのね。じゃあ言ってあげるわ」

 シャーリーの右人差し指がユリの方に向くと、その口から、今までため込んでいたのであろう怒りとともに言葉が転がり落ちた。

「父親が行方不明、母親が事故死、兄は毎日自分のために戦っている。そんな都合の良い「悲劇」のカバーストーリーをばらまいて周囲の関心を買うのをやめなさい、と言っているのです」

 ……「都合の良い悲劇」。この一言だけで、ユリの怒りを沸点に充分だった。ユリの顔が下がり、両拳に力が入り始める。
 が、さらにミス・ハービンジャーはつづけた。

「偽のお兄様を金で頼んでわざわざバイクで迎えにこさせたりしているそうね。
 お兄ちゃんが大好きです、なんて作文Compositionを書いて、みんなから褒められたそうね。
 どうせ金か薬でつきあっているんでしょう? そんなに学園のヒロインになりたいのかしら? そんなに、皆からちやほやされる私が羨ましいの?」

 ユリの全身が震え始めているのを、エレンたちは見守るしかない。
 ユリが軽挙に暴れだすような性格ではないことは知っていても、相手が相手である。

「……私がそんな嘘をつく必要がどこにあるのですか?
 仮に私があなたよりも注目を集めたとして、私が何か得をするのでしょうか?
 私はそもそも、今日まであなたの顔も名前も知りませんでした。そんな相手に、私が何故対抗しなければならないんですか?」

 ユリにとって決して下がることができないライン。シャーリーはとうにそのラインを越えていたが、このユリの一言の意味をはき違えたのか、勝利者のごとき視線でユリを「見下げた」。

「嘘ね。私が羨ましいから、嘘をついているに決まっているわ。
 ここまで来てまだ嘘の上塗りをするなんて、黄色人種イエローはモラルの欠片もないのかしら」

 この言葉には、蔑みのため息がおまけでついてきた。エレンといるうちの数人は、シャーリー自身が嘘で塗りかためた生活を送っていることを知っている。
 財閥の後継者である婚約者などいない。大学を首席で卒業し、複数の博士号を取った兄などいない。執事や秘書などは10人以上のチームでシャーリーの生活を支えているらしいが、そもそも彼女の家には執事も秘書も一人としていない。このことは、多くの人が知っていた。
 ただ、シャーリーが「一般人よりは」富豪であることだけは事実であり、それを目当てに嘘を嘘と知りつつ彼女につきあう者もいるのである。
「さすがに暴れるかもしれない」と、エレンたちも何時でも飛び出せるような体制を作る。
 ユリは全身を震えさせながらも、シャーリーに視線を向けた。「睨む」のではなく、「意識で貫く」ような力のある視線であり、シャーリーが一瞬、たじろいだ。

「ミス・ハービンジャー、この学園生活で、私は嘘など必要としません。
 この言葉を信じようが信じまいが、それはあなたの勝手です」

 ユリはエレンが思ったよりも冷静な表情に見えた。しかし、目だけはそうではなかった。
「冷静を通り越していた」と、のちにエレンが語った。
 ユリが一歩を踏み出すと、シャーリーは半歩下がった。シャーリーが二歩下がって動けなくなったとき、目の前にユリの顔があった。
 口元はぎゅっと引き締まり、全ての感情を「怒り」に変換し、それをすべて視線に乗せてシャーリーを見ていた。
 今度はシャーリーが震える番だった。彼女が経験したはずの「嘘の人生」において、このような危機は何度もあったはずだが、シャーリーは今のユリに抗するすべを知らなかった。

「あなたが私自身のことをどれだけ悪く言おうがそれは構いません。でも……」

 次の瞬間、その場にいた全員が自分の神経網を疑った。シャーリーの右足の近くで、爆発のようなことが起こったのだ。
 音はしなかった。しかし確実に空気がはじけ、周囲の砂や小石を巻き上げ、シャーリーの足に悪意となって襲い掛かった。
「いた!」とつい俯いたシャーリーの顎を、「何かがかすめて上昇した」。これも、誰の目にも見えなかったが、シャーリーが不自然に上体をそらして尻もちをついてしまったことで、「何かが起こっている」ことを目撃者の全員に感じさせた。
 むろん、この瞬間にユリの体は、僅かな指先の動きをのぞけば動いていなかった。

 ユリは、腰を落として震えるしかできなくなったシャーリーに、そのままの視線で「見下した」。

「私の兄を悪く言うことは絶対に許さない。この世でそれだけは、絶対の悪です!
 たとえ神がそれを許しても、私があなたを傷つけます。それを許した神すら許さない!!!!!!」

 シャーリーは、自分とユリの立場が逆転してしまったことを知った。
 なにがあったのか分からない。しかし、何かが自分の足を傷つけ、なにかが自分の顎を打ち抜こうとした。これだけは事実だった。
 さらなる害意の存在を、シャーリーは予知せざるを得なかった。そして、不幸にもそれは事実になった。
 体重を支えた左手の肘に「なにかに殴りつけられたような」激痛が走ったのである。もちろん、その間、ユリは身体を動かしてはいない。

「ごめんなさい、ごめんなさい! 許して、謝るから、謝るから!」

 心の底から恐怖したのだろう、シャーリーは腰の抜けた体を引きづるように、時間をかけてユリの前から去った。
 ユリはまったく表情を変えない。軟体生物の移動を思わせる「哀れな逃避行」を追わなかった。
 言い始めたものが逃げ出し、ミス・ハービンジャーが完全に姿を消した後、隠れて見守っていたエレンたちがユリの側に駆けよってきた。
「危なかったね」「何も起きなくてよかったね」との声が飛び交う。
 確かに、事態としてはなにも起こっていないのだ。「ミス・ハービンジャーがミス・サカザキを愚弄し、怒ったミス・サカザキにおびえて逃げ出した」という結果だけが残った。
 この場所を見守る三台の防犯カメラにも、詰め寄るユリに覚えて尻もちをつき、その結果、腰を抜かして撤退したシャーリーの姿だけが映っているはずである。

「みんなありがとう。心配かけてごめん」

 ユリが姿勢を正して一礼し、連鎖反応的にその場にいた全員が一礼する。なんだか気恥ずかしくて全員に笑いが伝播し始めたが、エレンの「じゃ、帰るよ」の一声でようやく散会し始めた。
 ユリはエレンと並んで、集団の最後尾を歩いている。しばらく無言を貫いていたが、意を決してエレンが言った。

「しかし、よく我慢したな。私だったらサッカーボールばりに蹴りまくってたと思うよ」

 ユリは少しは落ち着いたのだろう、照れたような表情をエレンから隠すように視線をそらした。
 ユリ自身、兄のリョウを目の前であれほど愚弄されたのは初めてであり、その結果自分がどうなるか、全くのわからなかった。

「エレンの想像通りに暴れなくてよかったよ。お兄ちゃんにこんな心配かけたくないからね」

「まあね」

 そこで、二人の言葉は止まった。しばらく無言で歩き、いよいよ校舎に入ろうという直前、エレンが立ち止まった。
 なにごとかと、ユリがふと振り返った。エレンはいつもの明るい表情に、「心配」というエッセンスを大量に振りかけていた。

「なぁ、ユリ、一つ聞いていい?」

「なに? 改まって」

 それでもエレンは迷っているのか、言葉を選んでいるのか、少し視線をうろつかせたあと、意を決したように言った。

「さっきのあれ、ミス・ハービンジャーを転ばせたの……お兄さんの“技”だよね?」

「…………!」

 ユリが何か言おうとしたのを左手で制して、自分を落ち着かせるように一息ついてユリを直視した。

「私、ユリのお兄さんのファンだからさ、技もいくつか知ってるんだ。
 相手に触れずに不思議な力で吹き飛ばす……「コオウケン」だったかな。
 さっき、ミス・ハービンジャーに、明らかに不自然な動きが続いたから、もしかしたらって思った」

「…………」

 あなたを怪しんでいるわけではない、と言葉を選んでいるエレンに対し、ユリは少しだけ下を向いた。そして、大きく息を吐きだした。
 そして、苦笑気味の笑顔をエレンに向けた。

「そうだよ、あれは虎煌拳。私のはまだ未熟で、お兄ちゃんには大きさも威力もなにもかもかなわないけど」

「……いつからできるようになったの? 隠れて練習を?」

「違う」と、ユリは首を横に振った。

「お兄ちゃんが虎煌拳の修行をしているのを覗いているとき、つい同じことをやってみたら出来ちゃった……」

「ついって……」

 あきれた表情のエレンにユリが頭をかいて俯いた。

「いや、だってできるとは思わないじゃない? でも原理とかそんなものは分からないから、普段は使わないようにしてるんだ」

 一応納得はしたのか、エレンは二度、三度と首を縦に振る。

「それが正解だね。三歳児が大型ダンプで公道を走ってるようなもんだしね」

「エレン!」

 ユリが突然大きな声で頭を下げた。ストレートのロングヘア―が、左右の肩に波のように広がっていく。

「エレン、お願い。私が小さくても虎煌拳が撃てるってこと、お兄ちゃんには黙っていてほしいの。
 これ以上、お兄ちゃんには心配をかけたくない。せめて今の生活を守りたいの!」

「…………」

 エレンは難しい顔をした。
「せめて」。ユリが口にしたこの言葉がどれほど大きな意味を持っているか、エレンは知っているつもりでいる。
 自分のために外で戦い続ける兄が、妹の「虎煌拳」を見てどのような思いを持つものだろうか。エレンは想像力がそう豊かなほうではないが、リョウが満面の笑顔でユリをハグすることはまずないだろう、と思う。
 複雑な表情で頭をかきむしるリョウの姿が容易に脳裏に浮かんできた。
 エレンはユリの家に遊びに行く機会も、リョウと顔を合わせる機会も多い。なにがきっかけになるかはわからない。
 しかし、エレンはユリの性格もよく知っていた。ユリの一礼への対応は、簡潔だった。
 エレンは下げられたままのユリの頭を一つ、ポンとなでるようにたたいた。

「私がそんなに信用できない? 今日はユリが無事だった、それで十分じゃないか」

 言いながら校舎に入っていく親友を見送り、ユリは最初に驚き、そして感謝の笑顔を浮かべた。

「ありがとう、エレン」