夏、少し広い裏通り、フェンスの金網、お世辞にも綺麗とは言い難い様々な人種の五十人ばかりの人間、そして飛び交う綺麗とも言い難い言葉の雨。
 これだけそろえば、ここがただのフェスティバルの会場でないことは確かだった。
 人間たちは姿も服装も言葉もバラバラだが、その視線は一ヶ所をさしてはずれなかった。
 男たちの中心で、二人の男が戦っている。その気になれば「殺し」以外何でもありのルールで、常に泥だらけの服装の男たちが戦っているのが常だが、今日は異変が二つほどあった。
 まず、戦っている二人がどちらも日本の空手に近い胴着を着込んでおり、それなりに強者であろう空気を醸し出していたのだ。
 偶然そうなったのか、それとも同流派の兄妹弟子であるのか、二人ともオレンジ色の胴着を着ている。袖の先とズボンの先は歴戦のたまものか見事に破れていた。一人は金髪、一人は茶髪であった。
 また、そのせいか二人は二人とも凶器の類を持ち出そうとせず、二人とも徒手空拳で争っていたのである。
 周囲の喧騒はこの特異な組み合わせのストリートファイトに興味津々で、大声で煽り、好き勝手に叫んだ。

「…………………」

 金髪の男はこの喧騒が好きではなかった。もともと闘いをギャンブルの対象にするのも好きではなかったが、これは生活が懸かっているから仕方がない。自分の趣味である小物づくりで生きて行ければそれがいいが、その程度の収入ではもう一人の家族があぶれてしまう。
 ふいに考え事がよぎったとき、ダウンさせた茶髪の相手が立ちあがってきた。足は力が入らないのかフラフラで、立っているのもやっとな雰囲気だが、ぐっと葉を食いしばり、気合で空気一喝すると、足を震わせながらも彼を前に構えを見せた。
 眼力はまだ死んでいない。

「そのあたりでもうやめとけ。手加減できるのも限度がある。歩いて帰れるうちに降参するんだな」

 金髪が言うと、茶髪は意外にも大声で叫んだ。

「ちょうよゆうッス! 手加減だと!? これからがサイキョ―流の本領発揮だぜ!」

 この自信発言にギャラリーの勢いも総立ちだ。なかばやけになる者、本当の隠し玉があるとしてこの勝負まだ分からないと見る者、色々だが、茶髪の男の自信がオッズにさらなる混乱を招いたことは確かだ。
 だが、勝負前のオッズは5:5だったが、現在のオッズは9:1、ファイト開始たった三分で、金髪の男の優位は決まってしまった。
 金髪の男が油断なく構えると、茶髪の男は不意に両腕を広げて特異なエネルギーを充実させ始めた。

(こ、こいつ、「気」を操れるのか!)

 金髪の男は警戒に警戒を重ね、相手の一挙手一投足に注目している。

「じゃあ行くぜ! どいつもこいつのオレ様の雄姿を刮目しとけ! 世界をゆるがすこの――――」

「覇王翔吼拳!!」

 さきに動いたのは金髪の男だった。彼は両腕を縦に広げ、誰にもまねできないような速度で身体じゅうの「気」を集めると、まるで大砲のように相手に発射したのである。光輝く巨大な気弾は、途中の口上と共に男の身体ごと年代物のビルの壁にたたきつけられてしまった。
 ずるり、と相手の身体が地面に崩れ落ち、数名がそれを囲んだ。
 相手が意識をなくし、戦意を失ったとジャッジされた瞬間、金髪の男、リョウ・サカザキの今夜の勝利が確定したのである。
 リョウはいつもどおり、ストリートファイトの賞金の入った袋を懐に入れ、観衆の中を時にはハイタッチしながら歩いた。
 裏通りでのストリートファイトと言えば聞こえは悪いが、どいつもこいつも悪い奴らではない。勝っている間は味方にもなってくれるし、軽口の相手になってくれる。勝っている間は。
 群衆の森を抜け、リョウは一応、封筒の中身をチェックした。入っていたのは3000ドル、当時のレートで90万円ほどだ。リョウは少し表情を崩した。良くも悪くもない結果だが、ここ数日は平穏に生きていけるだろう。

「リョウ」

 彼を呼ぶ声がした。品の良いスーツを着こんだ壮年の紳士だ。雰囲気は悪くなく、第一声で嫌悪感を抱く人間はなかなかいないだろう。
 だが、リョウはその正体を知っている。オズワルドという。白髪が目立ち始めたばかりの丸メガネの男で、こうみえてリョウと主戦場を同じくするファイターであった。
 経歴不明、年齢不明、出身地不明。それでも生きていけるのがサウスタウンの闇の世界であった。

「どうやら満足すべき結果に終わったようですね、リョウ」

 この紳士は、誰にでも敬語使いであった。

「まあな。しばらくくいっぱぐれることはないだろう」

「だが、その大きな満足が、あなたに安全を保障するとは限らない」

 リョウが何かを言いたそうなのを制すると、オズワルドは指である方向をさした。
 見ると、ビルの隠れて分かりにくいが、一台の大型車のかくれんぼのように先端だけ出してとまっていた。
 黒のシボレー・エルカミーノ。サウスタウンのマフィアの間で流行していると一部の噂で有名になってしまった車だ。

「ジャックとキングの激突が明日にも始まろうとしているこの時、外から目をつけている者がいるということです」

「心当たりがある。ストリートファイトの大会を利用して私腹を肥やし、手下を増やしている組織の幹部だ」

「名は?」

「Mr.BIG」

 ふふ、と少しだけオズワルドが笑った。

「ジャックとキングの勢力図より以上のものが二人の全面抗争で変わりそうですね。
 私は誰の傘下に入るのも趣味ではありませんし、この街を離れるとしましょう。
 リョウ、あなたはどうするのですか?」

「俺はこの街を離れられんよ。家族がいるしな」

 オズワルドは細い目でリョウをのぞき込み、難しい顔をした。

「リョウ・サカザキ。家族を守りたいなら、なおさらこの街を離れなさい。あなたの力は必ず誰かに利用されます」

「……………」

「あなたは妹を日常生活で一人にしているでしょう。たった一人の家族を人質にでもとられたら? その機会はいくらでもありますよ。
 妹を犠牲にしても、あなたは極限流空手の矜持を貫け続けますかな」

「……俺には闘い続けることしかできん」

 オズワルドの言葉は厳しかった。リョウは笑い飛ばすことを、呆れることも、怒ることもできず、半ば呆然とした。
 オズワルドはやや茫然とした表情のリョウの肩を叩くと、笑顔を見せた。

「少し喋りすぎましたね。あなたなら本当になんとかするかもしれない。
 興味は尽きないが、私は今夜でこの街を発ちます。無敵の龍、また会えることを楽しみにしていますよ」

 リョウはほんの一瞬の時を必要としたが、自分から離れていく真摯に、一言だけ投げ放った。

「Until the day we meet again !」

 オズワルドは振り返ることなく手を振った。腕の立つファイターだった。またどこかで会えるだろう。
 リョウにも待たせてはいけない家族がいる。彼女の元に帰るとしよう。
 リョウはゲタばきのまま、自慢の大型バイクにに跨り、エンジンをふかした。


Act.1-17 Gold Experience Requiem

KEEF


「………………………」

 エンジンを止めてからも、リョウの心には、一度立った波が収まらない。
 オズワルドからされた指摘は、ずっと頭の中を駆け巡って止まらなかった。
 家族を人質にとられて誰かの手ゴマに利用される。考えただけで人質に取られる家族の苦しみが痛々しい。
 若いリョウは、自分ならばどんな状態でも生きていける、と思っている。それだけ極限流空手と自分に自信があった。
 だが、家族が絡めば話は別だ。
 家族……リョウには妹しかいないが、妹にはできるだけ自由に過ごさせてやりたい。リョウの身内びいきかもしれないが、妹の中には数知れない才能と未来が眠っている。
 それを潰させないために、リョウとユリは、これまで命を削って生きてきたのだ。
 ストリートファイトを始めた当初こそ、幾度となく死にそうな目にあったが、毎日、過酷なまでに訓練で自分を追い詰め、父の教えを思い出し、自分なりに「気」の使い方をマスターしながら、どうにかこの世界で生きていくことができる目途がつくまでに三年かかった。
「無敵の龍」と呼ばれ、このサウスタウンの暗黒街で敵なしのファイターになるまでさらに三年かかった。
 それを他者のために利用される……考えただけでも胃に不快な内容物が沸き上がる。
 リョウには心当たりがある。だから、よけいに心に波が立つのだろう。直接的な接点は今まで数度しかないが、これから未来、必ず自分の天敵となる予感がある。
 そのキッカケがユリだったら……。実際に先日、誘拐されかけたユリは名の知れぬ牧師に助けられたというではないか。

(ならいっそ、また引っ越すのも悪くないかも知れない)

 思ってはみるが、自分で苦笑に伏した。
 相手はマフィアだ。どこに行っても追いかけてくることは分かり切っている。
 リョウはエンジンを切ったハンドルを握りしめた。マフィアから逃げきることなどできぬ。
 ならば、どうしてももう一つの可能性が頭をよぎる。
 −−−−−−−−−−。
 ……こちらからマフィアに攻撃をかける可能性。

「……バカバカしい」

 リョウは少し冷静になり、頭を一つ振った。喫煙者であればこういう時の「一服」が思考の切り替えになるのかもしれないが、幸か不幸かリョウは非喫煙者だった。
 マフィアにケンカを売るなど、正気の沙汰ではない。自分は一空手家に過ぎず、マーヴルコミックの超能力者ではない。バッタバッタと敵をなぎ倒す妄想に浸りながら、機関銃でハチの巣にされるのがオチだ。
 そして翌朝、サウスタウンベイの魚のえさが増えるのだ。
 リョウは長年戦い続け、サウスタウンのストリートファイターでも「最強」に上げる人物が少なくない存在にまでなり上がったが、それでも彼は「人間」であって、「放射能に汚染された蜘蛛に噛まれた」わけでもなければ、「致死量以上ののガンマ線を浴びて生還した」わけでもなかった。

「……また君と話がしたいな、マリア……」

 リョウは思わず、オーストラリアにいるはずの幼馴染の無意識に名を出し、ヘルメットをしまった。


「私以外の女のこと考えてる顔してる!!」

 自宅に帰り水を飲み、一息ついて妹のこの言葉である。
 腰まである長い髪をルーズに三つ編みにまとめ、Tシャツ一枚を着た彼の妹は、様々な理由から激怒しているようで、兄が見たこともないほど眉尻がつり上がっている。
 時刻は午後八時半。仕事で遅くなっても、まだ常識的に許される時間で在ろう。
 特に指定されていた買い物もない。ユリは常に食事関係の買い物はすべて一人で済ませることが多い。そして美味しい料理を食べてもらって兄に微笑んでもらうのがユリの至福の瞬間である。
 ……が、それは今の所わきに置いておいて大事ない。
 ユリにとって重要なのは、深刻な表情で帰ってきたリョウの表情であった。

「私以外の女のこと考えてる顔してる!!」

 繰り返されてもリョウにはぱっと思い浮かぶ女性がいない。と言うよりも、組織と自分自身のことを真剣に考えていたので、それ以外の要素がすっぽりと抜け落ちてしまい、組織と自分以外に全く思い当たる節がなかったのである。
 はっきりと「マリア」と名指しされても、リョウには否定することしかできなかっただろう。
 だが、リョウの表情は、遅くまで一人で待っていたユリの逆鱗に触れたようで、リョウの思惑など一グラムの重みの無かったわけだが。

「こんなに可愛い、たった一人の妹が、心も顔も真っ青にして心配しながら晩御飯を作って待っていた、ってうのに、この男は!」

 右人差し指を突き刺さんばかりにリョウに押し当て、ユリはリョウの瞳を睨みつけている。
 心当たりのないリョウとしては、これ以上ユリを怒らせないようふるまうしかない。心当たりがないのは確かなのだから。

「何のことかわからん。それよりご飯にしてくれ、腹が減ってる」

 これは事実であるから、リョウは恐れなく主張した。普段なら、リョウがストリートファイトの賞金をユリに手渡して、ユリがそれを感謝しながら財布に入れる、という日常風景があるのだが、今晩はそれも飛ばされてしまった。
 リョウはシャワー室に行くために埃もついていないオレンジ色の胴着を脱ごうとしたが、ユリがそれに待ったをかけた。リョウの肩に手をかけて脱衣を阻止したのだ。

「普段のお兄ちゃんなら絶対にしない、深刻な顔してた。でも100%深刻じゃない、そうじゃない顔もしてた。最後に誰の顔を思い浮かべたの!?」

 これは、リョウが「マリアとまた会話したい」と本人が自覚しないほど一瞬願ったのを、ユリが直感で感じた、そのことだった。
 ユリは時々リョウが驚くほどの直観力を発揮するが、今夜はそれが予言者レベルで発揮されてしまったらしい。
 とはいえ、リョウにも心当たりがない以上、否定することしかできないのだが。

 この時、リョウはまだ気づいていないが、先ほどと連動しつつ、別のことが原因で心の温度が上がりつつあった。

「知らないと言っているだろ、訳の分からないことを言っていないで、晩御飯の準備を……」

 だが、ユリも食い下がらない。

「私以外の女の子がお兄ちゃんに愛されるくらいなら、お兄ちゃんと一緒に南極の氷の中で凍死してやるんだから!」

「………………………」

 リョウの中で、「プツン」と音がした。これは彼自身、気づかぬ精神作用だった。
 ついさっきまで、この妹の安全のためにどうするべきか、自分がどのような心構えになればよいのか、過去を思い出しつつ表情が曇るほど真剣に思い悩んでいたというのに、当の本人は全く無関係――というよりも、彼にとっては意味不明な理論で食いついてきたのである。
 元より、ユリに求められて彼女を抱いた日から、性目的で他の女を見たこともなかった。無論、ユリを抱く前から友好関係にある女性は幾人もいるが、彼女らをセクシャルな目で見ろと言われても、今更それも無理だろう。

「なに!? 何か言いたいことがあるの?」

 強気に言い張る妹の肩を押すと、無心のリョウは怒れるユリをベッドに押し倒した。決して紳士のマナーにのっとったやり方ではない。野獣の作法である。

「ちょっと! なにを……」

 ユリの珍しい怒鳴り声は、中断を余儀なくされた。リョウは右手でユリをベッドに押さえつけたまま、左手で着ていた胴着のひもを緩める。試合中はどんなに相手に攻撃されようとほどけないように、普段はきつめに結んでいるが、それを簡単に緩めてほどいた。逆に言えばリョウの腕力が人並外れている少佐なのだが。
 そして、無表情のまま胴着のズボンを降ろす。抑えつけられたままのユリの視線が、自然とそちらの方をトレースしてしまう。
 そこには、そそり立った怒張が屹立していた。先ほどのストリートファイトの勝利の興奮もあったのだろうか、見事に峰を張っていた。毎日のように自分の身体に打ち付けられるそれを見慣れているはずのユリでさえ、つい赤面したくなるほど力の入りようであった。
 一瞬、ユリの身体が軽くなる。リョウが手を離したのだ。聡いユリは、これから自分が何かされるのだろうと悟っていたが、身体が動かなかった。半ば、何をされるのか期待の大きさで身体が動かなかった。
 リョウは両手でユリの頭を掴むと、腰の怒張を顔に近づける。いつも自分を征服するモノが至近に近づいても、ユリは顔を背けられなかった。

「もごっ!」

 次の瞬間、くぐもった音がなった。リョウが、自分の怒張をユリの口に突き入れたのである。
 一瞬で咽喉の奥まで巨大な武器を突きこまれ、ユリは瞬間的にせき込みそうになったが、それはゆるされなかった。
 リョウはユリの頭を左右両手でつかんだまま腰を前後に動かし、自分の怒張を何度も何度もユリの口腔に突き入れた。
 ユリはフェラチオをするのは、上手ではないが好きだった。自分を可愛がってくれた性器を口できれいにし、兄に褒めてもらうのは気分が良かった。
 だが、こんなに乱暴なフェラは初めてだった。これではただの機械だ。頭を抑えられて動くこともできず、ただただ巨大化した男性器を突き入れられ続ける。自分の意思どころか、呼吸どころができない瞬間もあった。
 ただリョウの思うがままに、されるがままに口を犯され続ける。
 一見、男の意思だけが暴れるだけの乱暴な行為に過ぎないが、意外なことがあった。

(……これ、気持ちいい……)

 口を犯されながら、ユリに意外に不快さはなかった。最初は苦しかったが、呼吸のコツは掴んだ。
 慣れてくると何度も何度も押し込まれる怒張に自分の舌を這わせ、唾を絡めてできるかぎり舌で愛撫した。
 むろん、兄の怒張はユリの口には入りきらない。全体を舐めまわすことは不可能だが、身動きを封じられてもできる範囲で、ユリは相手の開館を心がけた。
 下半身に熱を感じる。今日は学校から帰ってからずっとTシャツ一枚で家にいた。兄が望めば、いつでも行為に及べるように準備だけはしていたのだ。
 リョウの腰の動きが早くなる。限界が近いのだろう。ユリは自分も限界まで顎を開け、兄の怒張を必死に頬張り舌を動かす。

「!!」

 リョウの動きが止まる。両手で妹の顔を固定したまま、腰を限界まで顔に押し付け、怒張を口に突き立てた。勃起しきったその大きさは、ユリの咽喉を侵略し、先が直接食道に触れんばかりの距離感だった。
 そこから、男の欲望が一気に発射された。リョウの精子は、口ではなく食道から直接ユリの胃へと流し込まれた。
 しかも、量が普通ではない。普通の射精でもこんなに出ないだろう、というほどの精子が、滝のようにユリの胃へと落ちていく。
 ユリも、リョウも痙攣していた。リョウは豪快な射精の快感に身を震わせたが、それはユリも同じだった。絶頂したのだ。兄から道具同然に舌を犯され、一方的に射精の道具とされたことで、今まで感じたことがないほど大きな絶頂を迎えていた。
 もともとTシャツ一枚しか着ていなかったユリの下半身から、噴水のように潮がはじける。果たして一度の絶頂だったのか二度の絶頂だったのか、ユリ自身にも分からない。

 リョウが最後に大きく痙攣し、最後の精液を妹の口内に吐き出すと、ゆっくりとユリの口から怒張を抜いていく。ユリの唾液にまみれて淫らな光に濡れるそれは、信じられないことだが、大きな射精をしてもなお女を征服するには十分な大きさを保っていた。
 ユリも口内の最後の一滴を飲み干し、ようやく自由になった呼吸を誇示するように何度か咳をした。信じられない量の精液で咽喉と胃を凌辱され、しかもそれで失神寸前までイカされてしまった。
 なんどか大きく深呼吸し、ようやく身体の自由を取り戻したユリだが、絶頂の後遺症か、身体は指先をピクリと動かすのが精いっぱいと言うありさまだった。
 大きく呼吸を乱しながらユリが左に視線をやると、リョウが大きく背伸びをしているところだった。
 ユリは、自分が淫乱な女だと思われたくないので、自分が絶頂に達したことをリョウに知られたくなかったが、リョウは一息つくと、呼吸を乱しているユリと視線を合わせる。
 そこには、いつもの優しくユリを愛でてくれるリョウの顔はなかった。いわゆる「キレた」時に見せる冷たい光があるだけだった。
 もともと、リョウが「キレる」ということが稀有であった。瞬間的な緊張が連続するストリートファイトの最中ですら、リョウは冷静さを失った経験がない。意外にも、リョウはユリの「初体験」の相手だった。
 リョウは、絶頂の後遺症で身体を細かく痙攣させるユリの足元に移動する。そして、いまユリが一番見られたくないところーーTシャツの裾を指でもちあげ、妹が盛大に「気をやった」ところを確認した。
 下半身以上に顔が熱い。これまで何度も兄には恥ずかしい所を見られてきたが、本来は絶頂までにはいかないであろう行為で豪快に潮を吹いた自分は、いま一番恥ずかしいところを見られているのではないか。

「イッたんだな」

 自分の思惑に追い打ちをかけるような冷静な兄の言葉に、ユリはより恥ずかしさを覚える。いっそ、明るく罵ってでもくれれば、まだ開き直れるかもしれなかったが、兄は冷静に現状を指摘し、さらに言葉を追加してきた。

「それじゃあ、俺から女の匂いがしないか、さらに確かめてもらわなきゃな」

 リョウは再びユリの頭を両手でつかむと、濡れ屹立した怒張を、妹の口にそえた。そして、さらに速度を上げて妹の口内に付きこみ続けた。
 苦しさと快感で思考がぼやける。成すがままにされる中で、ユリの下半身がゆっくりと持ち上がっていく。彼女の下半身で熱いものが弾けたのは、その直後だった。そして連鎖反応的に爆発が立て続けに起きる。
 リョウが妹の状況を理解しているのかどうかは分からなかったが、少なくとも二度目にユリの口の中に射精したとき、ユリが完全に気を失っていたのは事実だった。
 力技での二度の射精で、ようやくリョウは冷静さを取り戻していた。度重なる絶頂に抗いきれず、激しく痙攣しながら気を失っているユリを見て、「さて、これからどうするか」と思い悩むのだった。
 だが、一つの疑惑をこの時、彼は確信に変えた。それをどのように実践に移すかは、これからの問題だったが。