午後9時。

 夕食が一通り終わって、リョウたちは改めてリビングでまったりとしている。
 ユリが好きな大リーグの試合結果を伝えるニュースがテレビから流れていて、リョウは香澄の酌でビールに口をつけていた。

 リョウはタバコは吸わないが、酒のほうは(父ほどではないが)ある程度たしなむ。もちろん、格闘に支障をきたさない程度に、だから、無分別にがぶがぶと飲むわけではない。
 香澄はソファのリョウの隣に座ると、リョウの飲むペースに合わせて酌をしていた。別にリョウに言われたわけではなく、自分からやっていることである。

 ユリはテレビの前に座って、画面にかじりついている。画面に映っているのは、ダンディな口ひげをはやし、大きな体躯をしならせて、左のサイドスローから剛速球を投げ込んでいる投手。“ビッグユニット”の異名をとる身長208cmの大投手、ランディ・ジョンソンである。ユリは、彼の大ファンなのだ。

 彼の奪三振ショーを見ながら、クッションを抱きしめて「いけぇ〜」とか「くうぅ!」とかうなっている。ニュースが終わると、「ほお〜」とため息をして、

「やっぱ、い〜わ〜、メジャーリーグ! もう、ランディ・ジョンソン最高!」

 と、目をきらきらさせて言う。
 ユリ自身、学生時代はソフトボールのピッチャーをやっていたので、彼に大いに憧れるところもあるのだろう。
 香澄は野球のことはさっぱりわからないのだが、ユリに影響されて、ニュースくらいは見るようになった。香澄のとぼしい野球知識では、彼女の好みはメジャー最強のショートストップ、「A−ROD」ことアレックス・ロドリゲス選手だった(ちなみに、香澄にはいまだに「セカンド」と「ショート」がどっちでどっちなのかわからない)。


Act.2-2 極限流道場の一日 [2]
KEEF


「お前、ほんとに野球好きだよな」

 リョウが笑いながら言うと、ユリは満面に笑みをうかべて大きく頷いた。

「そりゃ、もう。球技ってたくさんあるけど、あたしはやっぱ野球だね。あ、でも心配しなくてもいいよ。愛してるのはお兄ちゃんだけだからね♪」

「聞いてねぇよ」

 苦笑しながらも、リョウはユリの肩をぐっと抱き寄せた。「やん♪」と、ユリも嬉しそうに兄の頬に、自分の顔を寄せる。ふと見ると、横で香澄がビール瓶を持ったまま、羨ましそうに上目遣いでリョウを見つめていた。

「ああもう、そんな目で見るなよ。悪かったって」

 リョウはユリを抱き寄せたまま、逆の手で香澄を同じように抱き寄せる。香澄は、リョウの顔越しにユリと微笑み合って、二人で同時にリョウの両頬にキスをした。

 リョウはバツが悪そうに照れて、そのキスを受けた。


「さて、と」

 しばらくテレビを見ていたが、リョウは一息ついて、立ち上がった。両隣に座っていたユリと香澄は「およ?」といった表情でリョウを見上げる。

「どしたの、お兄ちゃん?」

「ん、そろそろ風呂に入ろうかと思ってな」

 聞いて、ユリが勢いよく立ち上がった。

「あ、じゃあ、今日のお相手はあたしで〜す。よろしく〜♪」

 言うと、ユリはリョウの背中を押して、無理やり歩かせた。

「おいおい、またか? 俺は一人でも…」

「ずべこべ言わない! あたしたちにご奉仕させなさいって! 香澄、夕食の片付け、お願いね」

「はい♪」

 ユリが振り向いて香澄に話し掛けてウィンクすると、香澄も笑顔でウィンクを返した。

 ユリがリョウを押し出してダイニングを出て行くと、香澄も立ち上がって、キッチンシンクに向かう。そして、張られた水につけられたままの食器を洗い出した。

 夕食後の一家の行動は、すでにだいたいパターン化されていた。
 リョウが風呂に入るときに香澄とユリのどちらかが一緒に入って、リョウが身体を洗うのを手伝い、そのままバスルームでリョウに抱かれる。
 残ったほうは夕食後の片付けを済ませて、寝る前にリョウのベッドに同衾し、そこでリョウに抱いてもらうのだった。

 今や香澄とユリの生活は、完全にリョウを中心にまわっているのだが、二人とも別に違和感を感じていなかった。それどころか、喜んでさえいる。
 リョウの方はリョウの方で、「二人が喜ぶなら、それもいいか」と、開き直って二人の好意を受けていた。
 二人にとっての生活の中心がリョウなら、リョウにとって生活の中心は二人なのだ。特に、リョウのほうから価値観を押し付けることはない。言ってみれば、理想的な三角関係の一つであることは確かだった。
 倫理的にはともかく。

 今夜も予想通り、15分もしないうちにユリの嬌声がバスルームから漏れてくる。
 今日はリョウのほうが相当激しくしているらしい。ユリは追い詰められたような声で、何度も何度も「イクっ!」と口走っていた。

 香澄はすでに片付けを終え、キッチンのテーブルに腰掛けていた。二人が出てくるまでは、もう少し時間があるだろう。
 香澄は、ユリの声を聞きながら、自分でも我慢できなくなっているのを自覚していた。立ち上がるとミニスカートを下げ、テーブルの角に秘所を直接こすりつける。すでに充分に濡れているそこは、何の遠慮もなく、丸みをおびたテーブルの角を受け入れた。

 香澄はリョウの名前を呟きながら、二度、大きく絶頂を迎える。
 身体を震わせながら服装を整え、椅子に座り直したとき、バスルームからリョウが出てきた。シャツとパジャマズボンを着たその腕には、失神したユリが抱かれている。リョウに丁寧に身体と髪を拭かれて、パジャマを着せられたユリは、そのまま彼女の部屋のベッドに寝かせられた。

 リョウはリビングに帰ってくると、肩にかけたタオルでまだ残っていた頭の水気を拭きながら、元と同じソファの席に腰掛けた。香澄もそれを見て、リョウの隣にちょこんと腰をおとした。

 香澄としては、早く自分も抱いてもらいたいのだが、さすがにリョウもユリを失神させるほど抱いた直後ではきついかな、とも思って、もじもじしたまま言い出せずにいる。

「香澄」

 いきなり聞かれて、香澄は「ひゃい!?」と素っ頓狂な声を上げてしまった。自分の考えていたことが、顔に出てしまったかと思ったのだ。だが、リョウの話の矛先は違うことだった。

「ユリもそうなんだが、なんで俺みたいな男がいいんだ?」

 もっといい男もいるだろうに、とはリョウは言わなかったが、香澄に疑問の目は向けた。香澄も、ややあって不思議そうな目をリョウに向ける。

「うーん、なんでって聞かれても、私はリョウさんの所有物ですから、ただそれだけのことで、いいとか悪いとかは考えたことないですねぇ。たぶん、ユリさんも同じだと思いますよ?」

「所有物……」

 香澄を最初に抱いたときに、いきなり「奴隷」発言があって仰天したが、香澄とユリ、二人の間で、自分に対する「そういう感情」は、段々と大きく、というよりエスカレートしているようにも思ってしまう。リョウはちょっと苦笑してしまった。

 香澄のやや上気した顔を見、彼女の足を伝う液体を見て、リョウは香澄のスカートの中に手を入れた。香澄はちょっと驚いた声を上げたが、反抗はしなかった。

 リョウに、先ほどイッたばかりの秘所の奥を愛撫され、ぺちゃぺちゃという液体の音を聞きながら、香澄は目尻を下げ、顔を天井に向けて何度か立て続けに痙攣した。リョウが股間から指を抜くと、それは香澄の粘り気のある愛液によって、満遍なくぬれていた。それを自分の眼前に出されて、香澄は何の躊躇もなく、それを自分の口に含んだ。そして、リョウの肉棒を口で奉仕するときのように、丁寧に舐めあげた。

 心行くまで自分の指を舐めさせてから、香澄の口からリョウは指を抜く。先ほどまでの愛液ではなく、今度は香澄の唾液によって、指から液体が糸を引いた。

「さて、香澄は今夜どうして欲しい? 言わなくていい。態度に出してごらん」

 リョウに言われてすぐ、香澄はもう我慢できないようにシャツとミニスカートを脱ぎ捨てて全裸になる。香澄の股間からは刺激されてあふれ出た愛液が、滝となって足を伝い、すでに床に達している。香澄はそのままリョウの前で四つんばいになり、自分の尻をリョウに向けて差し出した。

 ユリは、正常位でリョウの顔を見ながら抱いてもらうのが好きだったが、香澄は乱暴に扱われて、リョウに支配されるのを好んだ。それには、男に対して従属を示す後背位が、心理的にも感情的にも最も快感につながったのだ。

 リョウはなにも言わず、香澄の腰を両手でつかみ、一気に香澄を貫く。

 香澄の至福の夜は、まだ始まったばかりだった。