休日の午前六時半。
 朝の太陽も爽やかな時間、サカザキ家のダイニングは、緊張に包まれていた。
 二対のソファの片方にリョウが、テーブルを挟んだもう片方に、香澄とユリが座っている。
 リョウの罰から一週間が開けた朝、香澄とユリは、生唾を飲み込むほどの緊張感で、腕を組んでどっしりと座るリョウの言葉を待っていた。


Act.2-6 Change of Standard [4]
KEEF


 何気に難しい顔をしていたリョウは、二人の顔を左から右に眺め見ると、ふと表情を緩めて腕を解いた。

「まぁ、そう緊張するな。もう怒ったりはしないよ。二人ともこの一週間、よく我慢したな」

 リョウの言葉に心底安心したのか、二人は『はぁ〜』と、ため息を吐き出す。ユリは無意識に心臓を抑えていて、思わずリョウは苦笑した。

「あの……、それじゃあ、また……?」

 身長差と座高差のせいで、下から見上げるような視線をリョウに向けた香澄は、たどたどしく何か言おうとする。流石に、ストレートに彼を求めるには、もうちょっと弱気になっている香澄だった。

「そのことだが」

 リョウは、再び順々に二人の顔を見たあと、言葉を続ける。

「俺もこの一週間、色々考えてみたんだがな。以前に聞いてたお前たちの希望とか、俺の希望とか」

 いちいち説明くさい兄の言葉に、ユリはちょっと苦笑する。以前から、自分たちのことを好きに使えと言っているのに、何事もややこしく真面目に考えすぎるのは、兄らしい癖だった。
 もっとも、二人が『リョウの好きに』と言うから話がややこしくなるのであり、もっとストレートに彼を求めさえしていれば、それで済むことだったのかもしれないが。

「はいはい、それで、その思案の結果っていうのは?」

 何が出てくるのか2%の不安と98%の興味で、ユリは兄の顔を見た。
 リョウは何も言わずに、テーブルの上に小さな二つの紙袋を取り出した。中身はわからない。

「俺も、お前たちみたいに、自分に正直になることにした」

 そうして、二人に目の前の紙袋を開けるように支持した。
 リョウが自分に素直になって、自分達に何をプレゼントしてくれたのか、はやる気を抑えながら、慎重に二人が取り出した中身は。

 首輪、だった。

 これの意味するところは、一目瞭然である。香澄とユリの鼓動は、それこそ運動の直後のように跳ね上がった。顔と秘所が熱くなり、自然と呼吸が荒くなる。

「お、お兄ちゃん……、こ、これって……」

 ユリが早くも潤みだしている目でリョウを見上げる。リョウは、冷静な視線と冷静な言葉で、言った。

「見ての通りだ。お前たちを……、飼うぞ」

 ユリと香澄の心に、『飼うぞ』という言葉が乱反射する。この首輪を付けられた瞬間、二人は、正真正銘の意味で、リョウの『所有物』となるのだ。
 これからの毎日で彼女らに与えられるであろう快楽と調教の予感が、二人の精神を一気に支配する。二人には、既に自分達がリョウのものだという考えの下地があるから、その浸透力は凄まじく速かった。

 香澄は、既に快楽にのみ支配された呼吸を乱しながら、ユリとちらりと視線を交し合うと、俯いて、リョウに言った。

「私たちは……、貴方のものです……。こちらから、お願いします。私たちを……飼ってください……」

 言った瞬間。香澄の目の奥が、一瞬白く染まる。自分の言葉に高揚した香澄は、軽い絶頂を迎えていた。
 そこまでは察知し得なかったが、香澄の言葉に頷き、リョウは初めての『命令』をした。

「二人とも、着ているものを全部脱ぐんだ」

 二人とも、素直に従った。服といっても、二人が着ているのはTシャツとミニスカートだけである。二分もかからず二人が全裸になると、二人の肌は既にもみじ色に染まり、その股間からは愛液が膝まで垂れ落ちていた。

 リョウは二人をソファの脇に立たせると、二つの首輪を手にとり、自分も立ち上がった。そして、まずは自分の妹の前に立つ。
 なにをされるのか解っているユリは、目を閉じ、少し顎を持ち上げる。
 ドクン、ドクンと、ユリの心臓ははっきりとその音を所有者に伝えた。首筋に兄の手の感触を感じ、何かが首に巻きつけられる感触が続くと、彼女のそれは、一層激しく動き出した。
 この首輪が締められた瞬間、彼女の世界は変わる。そこは、ユリが望んだ世界だ。愛する者に支配され、彼に尽くせる世界。彼に自由に使われ、彼に思う存分に奉仕ができる世界。
 そして、世界が変わったと自覚した瞬間。
 目を閉じ、闇のはずの彼女の視界が、ホワイトアウトした。同時に彼女の下半身で、なにかが炸裂した。

「ん……んああああっ! イクぅッ!」

 思わず声をあげ、秘所から音がしそうなほど愛液を吹き出し、彼女は、身体をピンと張り詰めさせて、兄の胸に倒れこんだ。
 驚いたリョウは、びくんびくんと身体を痙攣させる妹を抱きしめた。
 彼の妹は、乱れた呼吸と潤んだ瞳で兄を見上げて、苦笑した。

「たはは、イっちゃった……」

「驚いたな、本当にイったのか」

「うん……、なんかよく解んないけど、いきなり身体がふわっとなって、力が抜けちゃった……。気持ち良かったぁ……」

 リョウは、力が抜けたままのユリをソファに座らせると、香澄にも同じように首輪を取り付けた。
 自分の言葉で一度絶頂を迎えている香澄は、再度絶頂を迎えることは無かったが、首輪を取り付けられた直後、いきなりリョウに抱きついて、激しいキスを求めた。
 それを拒否することなく香澄を抱きしめると、キスに応じた。リョウが送り込んでくる唾液を咽喉を鳴らして飲み干し、舌を絡めながら、香澄は今度こそ軽い絶頂を迎えていた。



 リョウは、二人が呼吸を乱すほど体力を使っていることを考慮して、少しだけ休憩を挟むことにした。
 ともすれば理性の枠をはみ出ようとする性欲と、逸る血気を抑えるのに、リョウも必死だった。
 飼われるほうは、理性の枠を取り払われ、自らの気持ちの赴くままに動けるようになった。しかし、飼うほうは、そうはいかない。
 彼は、二人の身体を自由にする権利を得たのと同時に、二人の命と健康に全責任を負う立場になったのだから。