「ほら、もっと尻を上げろ」

 彼女の前に立つ男は、あくまで余裕で、そしてあくまで尊大に命令する。
 それは彼が持つ当然の権利であり、彼女はそれを受け入れることを自分から許容した。というよりも、彼女自身が、彼に対してそれを求めたのだ。
 どちらかといえば最初、彼はそれにあまり乗り気ではなかったようである。
 だが、幼いころから自分以上に彼女の幸福を願ってきた彼は、自分で選択して彼女の要望を受け入れた。


Act.2-7 Real & Surface [1]
KEEF


「あなたが私の意志を尊重してくれるのは、もちろん嬉しい。
 でも、私の願望をかなえてくれるのであれば、それでは意味が無い。私の願望は、あなたの、あなた自身の意志によって、あなたに蹂躙されることなのだから」

 そうして、彼は自分の意思によって選択したのだ。彼女を「飼う」ことで享楽を共にしようと。
 彼女は彼の命令に従い、自分で彼に尻を向けて、それを上に向ける。
 彼の手がやさしくその双丘を撫で回し、その指が彼女の脚の間を滑り恥丘に触れたとき、彼女は一言だけ喘いで、一度だけ震えた。
 それに見合わぬ大量の愛液が、そのふとももを伝う。

 彼は一度だけ軽くその尻を叩くと、自身のペニスを彼女の中心にねじ込む。
 待ちに待った快楽、共にする享楽。
 彼女は激しく喘ぎ、自らそのペニスを求めて尻を振る。その様を見て、彼は彼女の痴態を自分の言葉で彼女に突きつける。
 彼女の至福は一度では終わらない。
 身体を押さえ込まれ、激しく男根を突きこまれて痴態を罵られる。肉体も精神も支配され、強制的に与えられる幾度もの絶頂の波に流され続けながら、最も高いところに突き上げられた瞬間、体内に熱いものを注がれながら、意識を暗黒の闇の中に叩き落される。
 それこそが、彼女の至福の瞬間だった。彼女の見る、現実とリンクしつつある夢。


 そうして、朝の光と共にユリの夢は終わる。
 だが、彼女がその夢と現実との落差に落胆することはもう無い。
 彼女の夢の続きは、現実の中に用意されているのだから。

 兄のためになりたくて差し出した心と身体。それは昔の話。
 でも今は違う。ユリは自分自身の願望と快楽のために、リョウに尽くすのだ。

 ユリはベッドから起き上がると、勢い良くカーテンを開けた。そして、自分の机の上に置かれた首輪を見る。今のユリにとって最も大切な、自分自身の“証”。

『さぁ、今日も頑張ろう』

 ユリは一度伸びをした後、その首輪を手に取り、全裸のまま部屋を後にした。