午後八時半。ユリは、朝と同じく、全裸にエプロンという格好でキッチンに向かっている。
 いつもと違うのは、隣に香澄の姿がないことだ。

 香澄も何か手伝おうとはしていたようだが、身体も意識もそれどころではないので、強制的にソファで休まされていたのである。


Act.2-9 Real & Surface [3]
KEEF


 香澄は今日の午前中から午後にかけて、それこそ文字通りの意味で、徹底的にリョウに犯し抜かれた。
 それこそ、キッチン、トイレ、ソファ、風呂場、そして道場と、意識が戻るたびに失神させられたのかと思えるほど、犯されたのだ。
 恐らく、自分が何度絶頂を迎え、何度失神させられたか、香澄は覚えていまい。今でも、疲労しきった身体を全裸のままソファに横たえ、時折、ぶるぶると身体を痙攣させている。

「香澄、大丈夫? 無理にご飯食べなくても、部屋で寝ててもいいんだよ?」

 ユリが声をかけると、香澄が弱々しくもハッキリした声で応えた。

「だ、大丈夫、です。こう見えても、まだ体力ありますから」

 言って、笑顔を作って見せた。

 ユリは感心しながらも、香澄の姿を見ると、思わず目が惹きつけられる。
 香澄は全裸のままソファに横たわっているが、その肌は艶っぽく紅に染まり、秘所からは、つい先ほど流し込まれたばかりのリョウの精液が、溢れそうになっている。また、その乳房は乱暴に鷲掴みにされたのが解るほど、赤い掌のあとがついていた。

 香澄は今日一日、狂乱の嬌声を上げ続けたわけだが、それは、言葉で罵られ、尻を叩かれながら犯される時に、最も艶っぽくなっているのを、ユリも香澄自身も理解していた。
 二人とも自分がマゾヒストだという自覚はあったが、改めてそれを強制的に理解させられると、流石に恥ずかしいものがある。特に、彼女等が敬愛する主人の前では。
 ユリなど、自慰を禁止されているのも関わらず、香澄の大きな嬌声を聞かされ続けるだけで、一度絶頂を迎えているのである。
 これから自分がどのように淫らに調教されるのか、一割の不安もあるが、九割の期待がそれを遥かに凌駕した。その期待が、夕飯の準備をしているユリに、思わず禁断の調味料を手にとらせるのだった。


「ごちそうさまでした」

 三人は手を合わせ、夕飯を終える。
 ユリは、香澄の調子が調子なだけあって、夕食は軽めのものに抑えた。それでも、香澄が完食したのをみて、感心八割、呆然二割で見てしまうユリである。

「あんまり無理するなよ、香澄」

 リョウも心配そうに声をかけるが、香澄を犯した張本人が言っても、余り説得力がない。
 当の香澄はと言うと、食事中から今も、頬を赤らめながら、嬉しそうにぽや〜っとリョウのことを見続けている。声をかけられても、恥ずかしそうで、でも嬉しそうに声を返していた。

『あ〜あ、ベタ惚れっていうか心酔っていうか……』

 ユリは夕飯の後片付けに入りながら、呆れて香澄を見る。
 自分の望みどおり、惨めに淫らに、自分の飼い主の欲望のはけ口として扱われたことが、香澄の感情を素直にさせたのか、特に午後あたりから、香澄のリョウを見る目は常にとろんとしていたものだ。
 どうやら、ユリよりも香澄のほうが一足先に「性奴隷ペット」として目覚めてしまったらしい。
 ユリにとっては、嬉しいやら悔しいやら複雑だが、彼女としては手を拱いて待っているつもりはなかった。
 恐らく、明日には今日の香澄と同じように、ユリも飼い主であるリョウから、徹底的に調教してもらえるだろう。だが、香澄の痴態を丸一日見せられ続けた身としては、一晩待てなかったのだ。

 ユリは、ある手段をとっていた。
 恐らく、それはリョウの不興を買うだろう。手厳しい罰が待っているかもしれない。
 だが、それこそユリの望むものなのだ。香澄のように、自分の淫靡さを激しく罵られながら犯されたい。それも徹底的に。

 自分の救われようのなさをある程度自覚しながらも、ユリは望む事態を待った。
 そして、それはすぐにやってきた。