Act.2-13 Naked Desire
KEEF


 翌朝。自分のベッドで目覚めたときから、ユリは身体の火照りを感じていた。あるいは、昨晩のアナル調教の余韻であろうか。

 まったく期待していなかったかと言えば嘘になるが、そもそも兄の夕食にセックス・ドラッグを混入させたのは、昨日の香澄と同じように、前の穴にペニスを突きこまれ犯しぬいて欲しかったからだ。それが、まさかいきなり両手を拘束され、アナルを犯されるとは思っていなかった。
 だがそれ以上に、その状況で激しい痴態を晒した自分の状況が、未だに信じられないでいる。だが、最後のほうは記憶があやふやではあるものの、力の入りきらぬ下半身と、アナルから微かに感じる痛みが、現実として昨夜の乱交をユリに意識させる。

 確かにユリは、頭では自分の「飼い主」である兄に自分を自由に扱って欲しいと思っていたし、口でも使いたい時に使えと宣言していた。それが、もっとも自分の欲望に忠実な行動だったからである。
 そして昨晩、最後に残っていたアナルを、モノに堕とされる形で、つまり最も彼女自身が望んだ形で調伏され陵辱された。これで、ユリの肉体で、兄・リョウの触れていない部分、支配されていない部分は、一箇所たりともなくなった。

 自分の意識や肉体が自分ひとりのモノではないという感覚は、実に奇妙にユリには感じられた。周囲の状況的な事実がどうあれ、生物学的にはユリの肉体も思考もユリだけのものであり、他者が介入するなど不可能である。
 だが、現在確かにユリは、意識的にも肉体的にも、リョウの支配に縛られている。それは、安直になにかに寄り添うとか、言葉の命令に従うという意味ではない。言葉でもって説明するのは難しいが、全てリョウの所有物である意識と肉体を、彼の許可を得てユリが使っている、と、そういう感覚であろうか。


 自分がそうなるように望みながら、これまでユリは、今朝のように強く、魂まで侵食するかのごときリョウの支配を感じたことは無い。その変化が、たった一箇所残っていたアナルを彼に捧げた結果だとするならば、これもまた奇妙に感じられるのではあるが。

 ユリ自身にはわかっている。現在、自分の身体を火照らせているものは、彼女の完全なる所有者である、兄への想いだ。
 支配される、縛られる、という表現は痛々しいが、実際はそんなに構えるようなことではない。最も愛する人を、最高の形で、常に最も身近に感じることが出来る、ということなのだ。
 彼女は常に、リョウの力強さと優しさの毛布に包まれている。それは彼女が物心ついた時から今まで変わることの無い、彼女の“世界”そのものだった。
 それは、ユリにいつも、生きるための力と勇気を与えてくれた。現在はそれだけではなく、果ての無い幸福感と底の無い快楽をも与えてくれる。愛の形・行為の形は多少いびつではあるが、周囲の評価などどうでも良いことである。


 その点、彼女と同じく兄リョウの性奴隷である香澄とは、明らかに感覚が異なる。香澄は純粋な憧心と、それまでに経験が無かった新鮮で激しい快楽を与えてくれるリョウから、離れられなくなったクチである。
 度を越えた快楽、それも他者から与えられる快楽というのは、まるで麻薬のようなもので、ただでさえ他者への依存心が強いマゾヒストであればあるほど、その魅力にとりつかれてしまうと、抜け出すのは難しい。それは、気丈な香澄をして、自らを性奴隷と呆気なく認めさせるほど強いものだ。

 特に香澄は、現在進行形でリョウに開発されている途上だから、日々与えられる大量の快楽と、確実に変わっていく自分への新鮮な驚きが、彼女をリョウに惹きつけて離すまい。
 事実、女性としての香澄は、彼女がサカザキ家に居候し、リョウに処女を捧げて以降の、このたった二ヶ月間で、ぐっと変わった。スレンダーと言ってよかった体型、特にバストは徐々に丸みを帯び、大人の女性として急激に完成に向かいつつある。更に、一本気であるがゆえに角が立つこともあった性格も、少しずつ余裕を持てるようになっているようだ。
 それもこれも、リョウと出会い、彼の調教を受け、自らの性的な特徴を開花させた故の変化である。最初からリョウがいたユリと、途中からリョウに出会った香澄、という違いこそあれ、二人とも彼によって人生を変えられたことは間違いない。


 ベッドに上半身を起こしたユリは、熱くなった胸を押さえ、愛液の溢れ出る太ももを摺り合わせる。今の彼女にとってリョウは、彼女の世界であるのと同時に、強力な媚薬でもあったのだ。
 どうにかして熱さを元気に転化させ、力の入りきらない腰を奮い立たせて、ユリはベッドから降りた。彼女がリョウ・サカザキの一部であるからには、それに見合った働きをしなくてはならない。
 ユリにとって楽しみでしかないそれをこなすために、とりあえず台所に向かうことにした。時刻は午前五時。ちょうどいい時間だ。

 今日から始まる、二泊三日の調教旅行。考えただけでも、イきそうになる。リョウが彼女たちに対してすることが、彼女たちに対して不利益であるはずが無い。ユリは兄の命令に、自分の意思で従うだけだった。