ユリがいつもどおり首輪をつけ、全裸でキッチンに向かうと、こちらもいつもどおり、既に香澄がキッチンに来ていた。
 だが、その様子は少々いつもと違っていた。旅行の出発の朝だというのに、香澄は怒っていたのだ。


Act.2-14 Luv Urinater [1]
KEEF


「だからさ、ごめんって言ってるじゃない。やり過ぎたと、今は思ってるよ」

 朝食の準備をしながら、ユリはひたすらその言葉を繰り返した。これしか、言葉が出なかったのだ。対する香澄のほうも、

「飼われている身分で飼い主マスターに薬を飲ませるなんて信じられません!」

 …の一点張り。会話が成立しているとは言い難い。

 それにしても、とユリは疑問に思う。二人が正式にリョウに飼われる事になってから然程時間が経っているわけではないが、ユリが性的に暴走するのは、今に始まったことではない。自分で改めて認識するのもおかしなことではあるが、立場が妹・兼・恋人から妹・兼・奴隷に変わっても、基本的に「自分に正直に」というユリのスタンスは変わっていないはずなのだ。
 しかし、そのことで香澄が怒りを露にしたことは殆ど無い。形はどうあれ、リョウとくっつくきっかけを与えてくれたユリの意思を尊重し、その暴走をやんわりと抑止しながらも、形の上では常に一歩引いていた。
 だが、はっきりと不満を口にする今朝の香澄の怒りようは、これまでとは違う。自分の意思を、表面にさらけ出している。

 ユリにとって思い当たることは一つしかない。香澄がユリに「対抗心」を持ちはじめたのだ。

 これまでと違い、二人ともリョウによって直接首輪をつけられたことで、二人の立場は対等になった。リョウもユリも、そんなことは気にしたことはなかったが、これまで二人の間にあった「時間」という絆に割り込みきれなかった香澄にとっては一大イベントであった筈だ。
 同じ主人に飼われる奴隷となった以上、友人であり先輩であっても、負けるわけにはいかないのだろう。本来の負けず嫌いな性格が、ここぞとばかりに首をもたげたに違いない。なにしろ香澄には、リョウとの間にユリほどの信頼関係を築けていないのだから。
 リョウから快楽を与えられるだけの立場から、一歩でも踏み出さねばならないのだった。

 このような状況を、『面白い!』とユリは思う。彼女にしたって、これまで積み上げてきたリョウへの愛情と忠誠は、香澄に負けているはずが無い。ことが主従関係だから、リョウを頂点にした三角形の中で二人の仲が崩れることはないが、それでも彼女のほうからリョウの愛情を全て香澄にくれてやる理由は、どこにも無いはずであった。

「確かに昨日はやり過ぎたと思ってる。だけど…」

 不思議そうな顔をしている香澄と視線を交わらせ、ユリは宣言した。

「まだ負けないよ、香澄。お兄ちゃんを独り占めしようなんて意地悪なことは思わないけど、全部あげちゃうわけにもいかないから」

 いきなりのことだったので、香澄は一瞬の半分くらいの間、呆然としたが、すぐにその意味を理解した。これはユリのほうからの、「逆・宣戦布告」なのだ。

「私もです。性奴隷として、ご主人様を全部ほしいなんて我侭は言いません。でも、その心の1%でも、ユリさんより多く勝ち取って見せます。今日からの旅行は、そのスタートラインです」

「へぇ、言うようになったじゃない?」

「これでも私、藤堂流の後継者です。方寸こころでは負けませんよ?」

 二人は、邪気のない清々しい笑顔で握手を交わす。全裸に首輪という奇態での風景ではあったが、その清涼な空気が殺がれることは無かった。

「………で」

 いきなり、一対の腕が、そんな二人の肩を叩く。

「朝食の準備はどうなった?」

 そこには、腹をすかせた無敵の龍が、事情を飲み込めない表情で、ぽつねんと立っていた。
 午前六時。
 三人は朝食を済ませ、それぞれのことをしている。ユリは食事の後片付けを、リョウはソファに腰を下ろして新聞を読み、香澄はそんなリョウの股間の間に四つんばいになって座りこみ、その肉棒に必死に奉仕をしている。香澄の首輪にはロープがつけられ、その先は、リョウの手に握られていた。
 リョウが朝一番のフェラチオ奉仕に香澄を指名し、その首輪にロープを取り付けている最中にユリに向けられた香澄の自慢げな表情を、ユリは悔しげに迎えたが、なにせ主人の選択であるから、出しゃばって交代するわけにも行かない。
 仕方なくユリが皿洗いやテーブル拭きにせいを出しているとき、窓際の電話・兼・FAXが高らかに鳴き声を上げた。リョウも香澄も手が離せないのは明らかだったので、ユリが手を拭いてそれをとりに行く。

「はい、サカザキです。ごしゅ…兄ですか? はい、おります。少々お待ちください」

 言って、ユリは受話器を持ったままリョウのほうに寄ってくる。

「お兄ちゃん、オーウェン・キングストンさんだって」

「ああ、知人だ」

 確認をとり、ユリは自分の持った受話器を、そのままリョウの耳に当てた。リョウは、新聞を読みながら会話に興じている。

「いや、こちらこそ面倒をかける。…いや、午前十時ごろになるだろう。世話になるよ」

 リョウの口ぶりからするに、今日からの旅行の宿泊先の関係者のようだ。
 そう言えば、宿泊に使うのはペンションだと言っていた。個人経営なのだろうか、とふと思って、ユリは考え直した。曲りなりにも「調教旅行」と名のつく旅行に、慎重なリョウがリスクを犯してまで人が大勢いる場所を選ぶとも考えにくい。恐らく、静かな場所なのだろう。
 ユリが気づくと、リョウは頭を動かさず器用に新聞を折りたたむと、一心不乱に彼の肉棒に舌を這わせる香澄の頭をつかみ、前後に動かし始めた。電話で会話をしながら、香澄にイラマチオをさせ始めたのだ。

『き、器用な人だ…』

 我が主人のことながら、ユリは感心しながら様子を見守る。普段、ユリに対して行うイラマチオよりは、香澄の頭の動き幅が小さい。154cmと小柄な香澄にとって、25cmのリョウの巨砲はそれだけで「凶器」なのだ。一気に丸ごと飲み込ませるわけにもいかない。リョウのほうでも、細心の注意を払って香澄を「使って」いるのだった。
 香澄は、リョウの電話に気を使ってか、必死に悶え出る声を抑えながら、強制的に動く顔と肉棒にこちらも器用に舌を使って奉仕をしながら、主人の射精を誘発する。
 そして、ちょうど電話が切れた時、その瞬間はやってきた。香澄の咽喉の奥ぎりぎりまで突き込まれた肉棒から、朝一番の濃い精子が大量に注ぎ込まれたのだ。

「ん――、んふう……」

 香澄は嬉しそうに目を閉じ、味わうようにそれを食道から胃に流し込む。受話器を持ったまま羨ましそうに見下ろすユリを一瞥だにせず、香澄は長い時間かけて主人の精液を嚥下した。
 しばらくそのまま三人は固まったが、リョウは香澄に肉棒を綺麗に舐め取らせ、それをズボンにしまうと立ち上がる。次は自分だと密かに期待していたユリは、朝の「調教タイム」が終わりを告げたことを確認して、少ししょげた。

「さて、まだ時間があるが、八時にはここを出るぞ。出る前に一通り掃除を済ませておこう。俺は道場をするから、二人はここらを頼む。
 …どうした、ユリ?」

「なんでもありません…」

 ユリはやや猫背気味に受話器をもとの場所に戻すと、言うだけ言って出て行くリョウの背中を見送る。
 その一方で、いかにも幸せそうに立ち上がったのは香澄だった。

「ふう、強引に飲まされる精液、満喫いたしました♪」

 そんな香澄に、サバンナのヒョウよろしくユリが飛び掛る。

「私にも飲ませろ、こんちくしょー!!」

「うわ、なにッ? なに―――――ッ!?」