朝食と掃除、そしてそれぞれの旅行の準備を終えた時である。あとは服を着るだけという状況になって、リョウは二人をキッチンへと呼び寄せた。
 ユリと香澄ががリョウの前に顔をそろえた時、彼の手に握られていたものを見て思わず驚愕し、お互いの顔を見合わせる。
 Tシャツとジーパンという、すっかりアウトドアスタイルに着替えたリョウの手に握られていたものは、長いロープと、小さめの二つのバイブレーターだった。それは、彼の健康的なスタイルとは好対照な淫らで非健康的な活動が、既に彼の中では始まっていることを、二人に強烈にイメージさせた。


Act.2-15 Luv Urinater [2]
KEEF


「よう、来たな。準備はできたか?」

「う、うん、いつでも出られる…けど…」

 リョウの言葉を聞きながらも、二人の視線は彼が手にしているものに釘付けになったままだった。
 彼が手にしていた二つのバイブレーターは、そう大きなものではない。付け根から伸びる短めのコードの先には、これも小さめの電池ボックスが繋がっている。明らかに形が違うので用途が違うのかもしれないが、リョウはあまり道具を使った責めをしないので、二人には用途の差は解らない。
 リョウはそれの調子を見るように手元でつつきながら、脇にロープを挟んでいた。二人は未だに全裸である。服を着る前の状況でロープを持って呼ばれたということは…。

「あの、やっぱりそれ、私たちの…だよね?」

 全く予想していなかった展開に、思わずユリが聞き返すが、その反応に今度はリョウが、ロープを弄びながら意外そうに応える。

「なんだ、お前たちならこのくらいは予想してくると思ってたがな」

「いや、ちょっと想像してなかったよ…」

 一時の驚愕状態からは脱したものの、兄の本気具合を改めて理解して、ユリは言葉に詰まる。

「ああ、下着を持って行くなって言ってたの、羞恥プレイでもするのかと思ってたんだけど、最初からこれが目的だったの?」

「そうだよ? 意外か?」

 そう、リョウは二人に、全裸の身体をロープで拘束し、その上から服を着ろと言っているのだ。
 つい先ほどまで掃除や準備といった日常に染まっていたユリと香澄の思考が、一気に調教モードに切り替わる。二人とも流石に緊縛された経験は無いので、彼の持つロープが如何に自分たちを辱めるか、結果が想像できない。だが、その未知の感覚が、逆に二人の被虐心を熱くする。

「意外って言うか…。ひょっとしてお兄ちゃん、私たちより、めちゃめちゃ知識ある?」

「さあな、どうだろう」

 あえてリョウは答えをはぐらかしたが、彼がこの方面に幾らかの知識を有していることは、その余裕の表情からも伺える。すべてを委ね、なすがままにされるマゾヒスト特有の快楽が、早くも脳内物質となって二人を染め始めた。頬が熱くなり、鼓動が早まり始める。
 少なくとも、リョウのほうもスイッチは入っているようだ。そのあまりにあっけらかんとした言いように、ユリも香澄も改めて驚き、足の付け根を熱くした。


「ほら、もうちょっと腕を上げて」

「うん…、こう?」

「ああ、いいぞ」

 これまた二人にとって意外なことに、リョウは実に鮮やかな手つきで二人をロープで拘束していく。スタイルとしては、上半身が亀甲縛り、下半身が股縄という組み合わせである。首から股間にかけて縦にロープを通し、脇の下から乳房を強調するように縛り上げる。ただ、これから出かけなければならないので、当然両手足は縛られず、首・乳房・股間をSM用のジュート縄で縛る格好となる。
 実のところ二人にとっての今の快感は、「拘束される」行為そのものが原因だった。本来、マゾヒストにとっての拘束とは、身体全体を拘束し、身動きが取れないようにされてから激しい調教を受けることが前提の行為である。今は両手足が自由であるとはいえ、ユリにも香澄にもその認識はあったから、彼女らの「飼い主」がしっかりその知識を持っていることが解った今、これから赴く先ですぐさまそういう状況にならぬとも限らないのである。
 その極めて近い将来への期待と認識が、二人を興奮させているのだった。

「どうだ、きつくないか」

 二人の緊縛が完成し、リョウがやや心配そうに声をかける。拘束は加減が難しく、縛る強さを謝ると血流を止めてしまい、身体を壊死させてしまう危険もある。彼としても慎重に成らざるを得ないのだ。

「うん…、大丈夫…だけど…、これ…」

 頬を薄っすらと紅に染め、ユリが香澄のほうを見る。香澄のほうも同じ感覚でいるらしく、目を俯けて頬を染めている。

「はい…。なんだか、すぐに…イッちゃいそう…ですね…」

 二人が大丈夫そうなのと、予想以上に効果があるのに満足して、リョウはユリの耳元に口を近づけて囁いた。

「ユリは、手錠のほうが良かったかな?」

「な!……あんっ!」

 ユリが思わず昨夜の痴態を思い出し、身体全体を深紅に染めて兄に向き直ろうとしたとたん、その身体がビクンと大きく震えた。ユリのアナルに、小さめのアナルバイブが一気に挿入されたのだ。
 思いもよらぬ突然の責めに、ユリの意識が一瞬飛んだ。開発されたばかりのアナルは、しっかりと彼女の性感帯の一部となっていた。リョウはユリのアナルバイブから伸びるコードを、腰の位置を縛るロープに固定する。

「んくっ!」

 同じように香澄の膣にも、小さめのバイブレーターが挿入された。香澄がふるふると震える。絶頂は免れたが、いつイッてもおかしくない状況のようだ。そしてやはり彼女の場合も、バイブレーターのコードと電池ボックスが、腰のロープに固定された。
 リョウの手には、小さな二つのコントロール・ボックスが握られている。

「お、お兄ちゃん、これぇ…」

「こ、このまま行くんですか?」

 ふるふると小刻みに膝を震わせながら、二人はリョウを見上げる。
 ロープで拘束されただけでも玩具にされたのも同然なのに、これでリョウの気が向いたときに、いつでも責められるのだ。直接的な行為をなにもされていないのに、二人の愛液はふとももをずぶ濡れにしている。
 彼は涼しい顔のまま、コントローラーを弄びながら答える。

「そう、そのままだ。ロープで緊縛しているから、簡単には落ちたりしないから安心しろ」

「安心しろって言われても…」

「これ…気になって、まともに、歩けないよぅ…」

「大丈夫だ、すぐに慣れる。目的地に行く途中に食料品を買いにモールに寄るが、それでも二時間かそこらだ。それくらい、我慢しろ。
 それとも、今すぐ使ってみようか?」

「お願いだからやめて…すぐに失神しちゃいそう…」

 声まで震わせながらやっと立っている、という状況のユリは、既に目尻をとろんと下げ、呼吸も熱い。
 わがままが許されるなら、今すぐソファに上半身を投げ出し、リョウに対して見せ付けるように自分で秘所を広げてみせ、背後から力強い突きを強請ねだりたかったが、二時間後には恐らくそれ以上の調教が待っていることを考えると、今ここで欲望に流されるわけにもいかなかった。
 それに、我慢すればするほど、より大きな快感も得られよう。そう自分に言い聞かせて、その場は必死で言葉を飲み込んだ。

「さて、それじゃ最後の用意だ。その上から服を着て来い。ズボンはすぐに濡れそうだから、スカートの方が良いかもな」

 無責任に言い放ちながら、リョウは二人の尻を同時に叩いた。

「きゃん!」

 思わず香澄が声を上げる。二人の愛液が、前方の床に飛び散った。