さして多くもない荷物をリョウの車に積み込み、二人して後部座席に乗り込んだときから、ユリも香澄も口数が少なめだった。二人はしきりに何かを気にしている様子で、熱い吐息を吐き出しながらうつむき、時折小刻みに震えている。

「鍵をかけてくるが、忘れ物はないな」

 リョウが運転席の窓から確認したときも、二人は薄く桜色に染まった頬ととろんとした瞳をむけ、力なく頷いただけだった。
 普段三人で出かけるときには、喧しいと言っていいほど賑やかな車中になることを思えば、これはこれで、なかなか希少な風景といえた。


Act.2-16 Luv Urinater [3]
KEEF


 ラジオから流れている賑やかなポップミュージックが車内のほぼ唯一の音源である中、時折リョウから話しかけられても、二人は殆ど生返事を返すだけで、明らかに心ここにあらずと言った感じだ。
 二人とも、軽度とはいえ、下着をつけずに外を歩く羞恥プレイの経験すらないと言うのに、いきなり体内に異物を挿入したままの外出なのだ。自分の下半身に突き刺さったバイブレーターが齎す違和感は想像を遥かに超えるもので、思考力と注意力の殆どが、体内のバイブレーターに向けられてしまっていた。
 バイブはまだ動かされていないが、いつもは何も感じない車の振動が、そのままバイブに移って小刻みに震えているようで、どちらかと言えば精神的なその小さな刺激が、二人の秘所をじっとりと濡らした。

 リョウは、

「これくらいでそんなに感じてちゃ、ペンションむこうでどうなるかわからんぞ」

 などと冗談交じりに語ったが、普段なら二人の羞恥を激しく煽るその言葉も、今の二人の頭の中に残らなかったようである。

 そうこうしているうちに、車は大型ショッピングモールの駐車場に入った。ペンション滞在中の食料品を購入するためだ。
 リョウは、滞在中は一歩も外に出る気がないのか、とりあえず二日間、三人が食べるだけの量を買い込んでいく算段であるらしい。

 車が止まり、リョウがゆっくりと運転席から降りる。彼に着いていくためにユリと香澄も車から降りるが、普段活発な彼女たちらしくもなく、その動作はリョウよりも更に緩慢だった。ユリは車から降りた瞬間にスカートから中が見えたらどうしよう、などと気にしてはいたものの、地面に立って尻を引き締めた瞬間にそんな心配も吹き飛んだ。
 腸内のバイブレーターが僅かに内部に動き、腸壁を刺激したのだ。

「んくぅ…」

 思わず、熱い息が漏れた。
 何とか力を入れ、内股気味に立ったものの、僅かな声が口から漏れる。ふと反対側を見ると、香澄も似たような状況のようで、頬を桜色に染めたまま車のドアに体重を預け、僅かに震えながら呼吸を整えているところだった。どろどろの秘所から愛液が腿を伝ってこないか心配しながら、姿勢を整える。
 思わず目を合わせた二人は苦笑しあうが、すぐにリョウの声が二人を促した。

「ほら、行くぞ。歩けるか?」

「うん、大丈夫! …だと思う」

「努力します…」

 呼吸を整えて力なく言う二人を、彼は心配そうに見ていた。



 店内に入っても足を擦り合わせるような不自然な歩き方をしていた二人ではあるが、暫く歩いて慣れてきたのか、ゆっくりではあるが、段々と普通の歩行に近くなっていた。
 それでも、早朝とはいえ多くの客が集まるショッピングモールで、淫らな玩具をつけたまま行動する違和感は拭いきれない。いつバイブレーターを動かされるのか、動かされたらどうなってしまうのか。
 二人の理性は、快楽物質の海に浮かんでいる丸太一本にようやくしがみついている状況で、なんとか水平に保たれている。なにか軽い切欠でも与えられれば、すぐにその丸太は横転してしまうだろう。
 リョウの両腕にユリと香澄がぶら下がるように腕を絡めながら歩く様は、仲の良い三人兄妹というよりは、どちらかと言うと、動物園の親子のコアラのようだった。

「だいぶ慣れたかな」

 ユリがショッピングカートを押しながら呟く。まだ顔は赤く、呼吸も暑さを蓄えているが、見た目にはそうおかしなことはない。歩行も軽めだ。

「ちょっとぽーっとしますけど、慣れてしまえば、これもいい刺激ですね」

 香澄は相変わらずリョウの腕にぶら下がったまま、応えた。
 リョウが尋ねる。
「車の中で押し黙ってたときはどうなるかと思ったが、慣れるのも早かったな。気にはならないか?」
「気にならないわけないでしょ、お尻にバイブ刺さったままなんだから」

 ユリが思わず小声で苦笑する。

「ただ、感じるには感じるんだけど、弱い快感に常に浸かってる感じかな。イクほどじゃないんだけど、気持ちはいい、くらいの。気を抜いたら、ちょっとぽーっとするけどね」

「ほう」

 この瞬間、リョウの口元がちょっとだけ変化したことに、二人は気づかなかった。やはり「弱い快感に常に浸かってる」状況は、いつもと異なっていたに違いない。
 世界で一番リョウのことに詳しいはずのユリでさえ、今日は朝から彼の「スイッチ」が入っていることを、失念していたのだから。

 リョウは急に、ポケットに手を突っ込んだ。ハンカチでも出すのかと思った二人に耳打ちするように、囁いた。

「じゃあ、その弱い快感が、ここで急に大きくなったらどうする?」

「え?」

 瞬間的にユリと香澄の表情が強張った。早朝で少ないとはいえ、客の目があるこの広大なショッピングモールの食料品売り場のド真ン中で、バイブを挿入したまま歩く淫乱の変態であることを暴露するかのように、よがり狂う醜態を晒せと言うのか。

「あ、あの、じょ、冗談だよね?」

 二人の声のトーンが急激に下がる。緩やかに震えていた足以上に声を震わせて、彼女たちの「飼い主」を見上げる。
 気のせいか、リョウの瞳の温度が少しだけ下がっているように、香澄には見えた。二人とも知っている筈だ。それは、常に彼女らを調教しているときの、彼の表情だった。
 リョウは、無言のままポケットから手で隠すように小さなコントローラーボックスを取り出す。ユリはごくりと咽喉を鳴らした。

「なに、いい経験だ。声は出すなよ」

 言って、リョウが二つのコントローラーのダイヤルを回した。次の瞬間、二人の体内に挿入された異物が一気に動き出す。刺さっているだけの状態でも十分存在感があったそれは、いよいよ本領発揮といわんばかりにそれぞれのアナルと膣をかき回した。

「ああ、うわああ!」

「んくっ、くうん!」

 思わず声を上げて、ユリはカートの取っ手をギュッと握ったまま膝をつき、香澄は思いっきりリョウの腕にしがみつく。何事かと視線を向けた客や店員の目を、リョウはなんとか誤魔化した。
 だが、ユリと香澄にとってはそれどころではない。リョウはどうやら、バイブレーターのパワーをいきなり最大に入れてしまったらしい。それまで軽い快楽の海の上で何とかバランスをとっていた二人の理性は、驚くほど呆気なくその海に放り出された。
 頭の中が真っ白になり、かき回される膣やアナルの感覚がそのまま全身に転移したかのように、ガクガクと身体が震える。

「あ…んんんんッ……!」

 香澄はリョウのシャツの袖に噛み付き、全身を震わせながらなんとか声を抑える。だが、言葉の漏吐は抑えることは出来ても、愛液の漏吐はそういうわけにはいかない。
 リョウは二人をなんとかフロアの端のトイレ脇のベンチのほうに移動させたが、歩いた影響で愛液が太ももを伝い足元まで流れ落ち、靴と靴下とを塗らした。

『だめ、イク! 人が見てるのに、外なのに道具でイク…イ…クぅ…』

 香澄がそうしているようにユリもリョウの腕にしがみついて震えながらリョウの顔を見上げる。リョウは二人の表情を順に見て。
 一つ頷いた。

『うああああ、もうだめ、イク!』

 それを見た瞬間、二人の意識の端と白い光が弾け、下腹部のあたりで熱いなにかが弾けた。ほぼ同時だった。ユリの腸壁と香澄の膣道が、それぞれのバイブレーターをぎゅっと締め付ける。
 初めてのバイブレーター、初めての屋外、初めての羞恥、全ての要素が、二人の絶頂を異次元の域に飛ばした。
 リョウが誰も見ていないことを確認し、タイミングを計って、二人のスカートの全面をはだける。それがトドメとなった。

『〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!』

 その瞬間、二人はほぼ同時に、驚くほどの勢いで潮を撒き散らして絶頂に達した。それはまるで噴水のようで、至近の壁に二人の淫行の証を刻み付ける。
 その様を自分の目と下半身で確認しながら、二人は意識を失い、ずるずると床に崩れ落ちた。



 目を覚ましたとき、香澄はベンチに座ったまま、リョウに寄りかかっていた。
 ふと反対側を見ると、ユリが同じようにリョウに寄りかかっていた。ユリはまだ意識を失ったままなのか、顔をリョウの肩に当てたまま、ぴくりとも動かない。

「気がついたか。大丈夫か?」

「あ、は、はい」

 不意にリョウから声をかけられて、香澄は一気に赤面して俯いた。
 これまでにも激しい快感を与えられ続けてきたし、彼の前で潮を吹いたのが初めてと言うわけでもないのだが、先ほどの絶頂は、まったく次元の違うものだった。
 噴出した潮と一緒に、下半身と魂が根こそぎ噴出してしまったかのごとき強烈な絶頂感は、思い出すだけで腰が浮くようだった。それが、初めての道具によって齎されたものなのか、初めての屋外プレイによるものなのか、それとも両者の合わせ技によって齎されたものなのかは解らない。
 だが、それによって激しい絶頂を迎えた自分は、いったいどこまで淫らなのか、リョウによってどこまで淫らに開発されるのか、今は想像しただけで絶頂しイッてしまいそうだった。

「あのっ、私、どれほど気絶してました?」

「4分か5分ほどだ。心配するほど長くはない」

「そうですか…」

 どうやら、行程に影響はなさそうで、香澄はほっと安心の吐息を漏らした。その様子を見て、リョウはその頭をくしゃくしゃと乱暴に撫でまわす。

「突然悪かったな。驚いたろ」

「謝るくらいなら、最初からやらないでくださいよ」

 香澄は思わず苦笑したが、撫でられるのを止めようとはしなかった。

「で、どうだった? 初めて外で経験した絶頂は?」

 問われて、香澄は煙が出そうなほどの勢いで赤面した。
 良く見ると、自分の足も床も壁も、心持ち湿っているようではあるが、先ほどのW絶頂噴水の後を伺わせるものはない。自分が失神していた4分か5分の間に、リョウが後始末をしたのだろうか。
 だが、その努力も甲斐もなく、香澄の下半身は再び大量の愛液をたたえ始めている。

「その様子だと、聞くまでもないようだな」

 満足そうに言うと、リョウが手元に二つのコントローラーを取り出した。
 それを見ただけで、香澄の心臓が高鳴る。こんなに小さな物体が、自分の身体を弄んだのだ。

「じゃあ、そろそろ行くか。ユリを起こさなきゃいけないんだが…」

 言って、リョウは自分の右肩に倒れこんだまま意識を失っているユリを見下ろす。そして、一瞬か二瞬、考えるそぶりを見せ、次いで自分が手にした二つのコントローラーを見下ろす。

「香澄」

「はい?」

「ユリを起こすついでに、もう一回イってみるか」

「はい。……………………えッ!?」

 香澄は、つい流れで返事をしてしまった直後にリョウの言葉を理解し、慌ててリョウのほうに視線を向けてみる。彼は、今にもコントローラーのダイヤルを回そうとしているところだった。

「え!? ちょっ!」

 香澄が抑え気味の声を上げた瞬間。
 ダイヤルが最大まで一気に上げられた。

 ついさっき、香澄を未知の激しい絶頂に追い込んだ下半身の異物が、再び激しく暴れだした。

「えっ!? うっ、うあっ!」

 ユリも一瞬で目覚めたのか、くぐもった声を上げる。恐らく、自分がどういう状況にあるのか、全く理解できていないだろう。
 だが、香澄のほうもそれどころではない。頭の中が一瞬で真っ白になり、何も考えられない絶頂モードに突入している。下半身から強制的に与えられる刺激が全身を駆け巡り、バイブの振動が直接脊髄と脳髄をつつきまくる。

 ユリも香澄もベンチに座ったまま必死でリョウの腕にしがみついて言葉をかみ殺すが、腰が自然に痙攣しながら浮き上がる。リョウがその隙に、二人のスカートをずり下ろしたことが、二人の快感を倍化させる。
 どこで誰が見ているか解らないこの状況で、ロープに拘束された下半身を人目に晒し、最高の勢いで絶頂に押しやられる。 

『だめ、イクッ、も、すぐにイク!
 イクイクイクイクイクッ!
 イク〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!』

 そして、ベンチの背もたれに体重を預け、思い切り腰を浮かせた二人は、そのまま二度目の絶頂噴水を披露した。流石に一回目ほどの勢いはなかったものの、床に撒き散らされたその淫らな液体は、ユリと香澄が急激に堕ちていく証であった。