Act.2-19 Luv Urinater[6]
KEEF


 そのログハウスは、正面から見た目よりも広く、地下室も合わせればかなりの敷地面積があるように思えた。
 更に、良く整備された広いバルコニーから見える木々の景色は素晴らしく、ユリも香澄も、買いこんだ食料を持ち込んだ後、嬉しそうにバルコニーに出てはしゃぎまわった。その様子を見て微笑みながらも、リョウは二人を自分の元に呼び寄せて、最初の命令を与えた。


「まずは、着ている物を全て脱ぐんだ」


「着ているものと言っても、ワンピース一枚だけどね」


 言いながら、ユリも香澄も、躊躇なく着ている服を脱いで全裸になる。忠誠を誓う主人の前で、躊躇うことは何もない。
 二人とも肌が少し赤らんでいるが、それはこれまでに散々弄ばれたせいか、これからの恥辱に満ちた短い時間への期待のせいかは解らない。恐らく、その両方によるものだろう。
 ユリの瑞々しく輝く整った形の乳房と、香澄の大きくはないが張りのある乳房が、リョウの前にさらけ出された。
 二人とも、気持ちを元気な普通の女の子のそれから、淫らで飼い主に忠実な性の奴隷へと切り替える。それは、言われてなるようなことではなく、身体に散々刷り込まれた快楽からの脊髄反射だった。

 リョウはリビングに設えられているソファに座り、目の前に立った、若さと美しさに溢れた二人の、既に愛液で潤い始めている秘所を目前にして、そこをくすぐる様に指の腹で撫でた。

「んっ……」


 二人の足が僅かに震える。リョウに素肌を触られると、それがソフトタッチだろうが微弱な快感となって二人の背中を走った。やさしくゆっくりと愛撫を続けながら、リョウは問う。

「初めてロープで縛られて、誰かが見ているかもしれないところでイッた感想は?」


 そう問われて、二人とも頬を赤らめて頷いた。答えるまでもない質問ではある。あれだけ派手に絶頂を迎えたのは、羞恥行為に激しい性的快感を感じたからだ。


「んっ……凄く、気持ちよかったよ」


 車の中でも絶頂で失神したユリは、ほんのりと身体全体を朱色に染め、文字通り撫でるような愛撫に言葉を震わせながら答える。


「部屋の中でイクのとは違う感じ。なんか、スーッと魂が口から抜けてくような、一瞬で頭が真っ白になるような」


「ユリは特にお尻で感じまくってたからな。一度慣れてしまうと、もう戻れないだろ」


 リョウに軽く笑いながら言われ、ユリはいっそう身体の色を真紅にして、拗ねたように目を背けた。


「べ、別にいいもん。お兄ちゃんの命令だけど、私のためだし、好きでやってるんだから!」


 リョウは香澄と視線を合わせて一瞬苦笑めいた表情を浮かべると、立ち上がって優しくユリを抱擁する。


「ほにゃ……」


 空気の抜けるような声を出して、ユリが兄に体重を預ける。そのままキスをし、乱暴に押し倒されて犯されることを期待していたが、兄の抱擁は一瞬で終わってしまい、少し拍子抜けてしまった。
 リョウはユリの脇に立つと、その身体を拘束していた麻縄をほどいてしまったのだ。


「あれ、ほどいちゃうの?」


「ああ、これは試しにやってみただけだし、外出時にやるから効果があるんだ。日常生活でやると、色々と不都合が多いだろ? 俺もまだ慣れていないしな」


 説明しながら、リョウは香澄の縄もほどく。僅か二時間の拘束だったが、しっかりと二人の身体には“あと”が残されていた。
 二人の中に入れられていたバイブとアナルプラグも抜かれた。抜かれる際、敏感な体内の襞を擦られ、二人とも小さな声を漏らして身体を震わせる。


「せっかくあの拘束感に感じ始めてたとこなのに……」


「心配するな。色々と新しく刻み込んでやるさ。精神あたまにも、身体にもな」


 一瞬だったが、リョウの目に、二人の性奴隷を飼う主人としての光が瞬いた。それを見逃す二人ではない。他の誰にも見せない、ユリと香澄の二人しか見ることが出来ない、リョウの一面である。この瞬間だけでも、二人はリョウを独占することができた。


「あのさ……」


 ユリが、先ほどまでと違い、遠慮がちに声を出す。


「なんだ?」


「トイレに……行ってきてもいいかな」


「どっちだ?」


「どっちだって……」


 遠慮のない質問に少し俯き、内股を少し擦り合わせながら、小さな声でユリは答える。


「……おしっこ」


「ふむ」


 一瞬だけ考える仕草をしたあと、リョウはユリと香澄にリードのついた首輪を取り付ける。二人とも顎をあげ、それに素直に従った。


「こっちへ来るんだ」


 二人の首輪から伸びるリードを持ち、心地よい陽光の入る窓際まで来ると、リョウはバルコニーまで出る。
 当然二人は、全裸に首輪を着け、本物の飼い犬のように飼い主に引っ張られてそこまで来たが、さすがにその姿のまま屋外バルコニーに出るのには躊躇した。
 窓とバルコニーの境で、足が止まる。


「ほ、本当にこのまま外に出るの?」


「? そうだよ?」


 何を今更? といった表情で、リョウはバルコニー側から二人のリードを引っ張るが、二人とも決心がつかないのか、足元は重い。
 香澄は不安そうにユリの表情を見、ユリも同じ心境で香澄の、ほんのりと朱に染まった顔を覗く。

 言うまでもないが、屋内で全裸になることと、屋外で全裸になることは、現象面でも心象面でも全く異なる。
 ユリも香澄も、リョウに対しては自分の全てを見せることになんら臆することはない。むしろ、自ら進んでリョウに自分の恥ずかしいところを晒すことで、彼への忠誠と、マゾヒストとしての自分の快感を、同時に満たしている。
 だが、それはあくまでリョウ個人に対してのものだ。誰も彼もを相手に痴態を晒す真物ほんものの痴女になりたいとは、二人とも全く思っていない。
 ギリギリの、しかも曖昧な一線かもしれないが、個人に絶対的な忠誠を誓う飼い犬としての立場と、淫乱なだけの“ただの痴女”との間には、やはり明瞭な一線があると、ユリは思っているのだ。“淫乱なだけの痴女”に“忠誠心”をくっつけただけではないのか、という問いに対しては、ユリは明瞭な回答を出すことが出来ないかもしれないが……。

 ユリは、バルコニーにいるリョウに視線を向ける。自分達の首から伸びるリードを手に、二人を“道具”として自由に扱うことが出来る、唯一の人。自分の兄にして、飼い主にして、自分の全て。
 ユリは心を落ち着かせ、もう一度リョウに視線を向けた。その顔には、特に二人を責める表情を浮かべてはいない。彼らしく、二人が決心するのをじっくり待つ気のようだ。何事にも忍耐強い彼らしい選択。
 その表情に、ユリの迷いは、すっと落ちていった。
 考えるまでもなく、迷うこともでもなかった。リョウの求める行動、リョウの口から出る言葉が、自分の“全て”なのだと、何度も自分で思い知ったはずだ。それに対して恥ずかしさを覚える自分のほうが、やはり間違っているのである。
 そう思考を切り替えて見たリョウは、燦々と降り注ぐ陽光にその金髪が眩しく溶け込み、半神の趣きさえ、ユリには感じさせる。引き締まった肉体と逞しい腕は、ユリと香澄を内に抱え込んで、なお力強さに溢れている。世の一切に立ち向かい、これを撃砕し、いつまでも自分を護り覆い尽くす、人の天蓋。
 ユリは小さく憧憬の溜息をつき、そして一度目を閉じた。そして再び目を開いた時、その表情から完璧に迷いを消していた。リョウがこれから自分に求めるであろうことを、洞察したのだ。


「本当に、恥ずかしいんだからね」


 柔らかな笑顔で言いつつ、不安げな香澄を横目に、ユリは窓枠を跨いでバルコニーに出る。産まれて初めて全裸で屋外に出た瞬間だったが、不思議とユリには羞恥心はない。それ以上に高揚感と恍惚感が、ゆっくりと心に染み込んでくる。血の温度が上がるのを自覚しつつ、ユリはバルコニーで屋外の空気にしばらく肌を晒した後、腰を落とし、跪いて両手を地について四つ這いになった。
 それを見て、リョウは微笑んで頷いたあと、同じく香澄を視線で促す。香澄はユリほどに自分に対して達観になりきれなかったが、リョウが求めユリが従ったことに、反抗するわけにもいかなかったし、その気もなかった。
 香澄も慌ててバルコニーに出ると、リョウの足元、ユリの隣に腰を落とした。ただユリのように四つ這いにはならず、膝をつき、正座に近い座り方になった。意識してのことではなかったので、リョウはそこまでは咎めなかった。


 二人はリョウについて、四つんばいのまま庭を歩く。背の高い木が疎らに生え、大地は牧草地のように草が生い茂っているが、生えっぱなしというわけでもない。よく整備されたそれは、芝生ほど硬くもなく、慣れないユリが膝立ちで歩いても、かろうじて膝を痛めない程度のクッションになるほどの密度を持っている。
 ユリもそうだが、香澄も、実際に全裸で屋外に出て犬のように暫く歩いてみると、意外と恥ずかしさは感じない。中途半端に隠していると「恥ずかしい」という感情が生まれてくるものだが、ここまで全てを晒してしまうと、逆に清々しいものだ。
 元より、ここには自分たち以外にはリョウしかいないし、そのリョウが誰も入ってこれないと言うのだから、間違いはない。普段は、リョウの前ではハダカでいようと決めたのは、他でもない自分達だし、裸を隠すべきリョウ以外の相手がいなければ、そもそも隠す必要もないわけで、恥ずかしがるだけ損というものだった。
 ユリは、香澄よりもほんの少しだけ決心が早かったと言うだけの話なのだ。

 二人が慣れてきたのを見て取ったリョウは、立ち止まってユリに視線を落とす。


「さて、ユリ、解るな?」


 かけられた声はその一言だったが、ユリは全てを理解して、恥ずかしそうに目を伏せて一つだけ頷いた。
 自分が「おしっこがしたい」と言い出し、首輪をつけて屋外に出て、四つんばいでここまで来たのだ。自分がなにをすればいいのかは、解りすぎるほど解っている。


「うん……、ちゃんと見ててよ……。それが、飼い主の義務なんだからね」


 零すように言いながら、ユリは手近な木に近寄る。そして、四つんばいのまま、その幹に向かって片足を高々と上げた。格闘技で鍛えた白い足腰が、素晴らしい直線となって自然の中に伸びる。
 小刻みに震えているのは、流石に恥ずかしさを感じているのか、それとも我慢が限界に達しているのか。香澄はその様子を、心臓を高鳴らせながら、しかし視線を反らせることなく、まじまじと見ている。


「……ん!」


 一つ唸って、ユリは腰に力を込めた。次の瞬間、ユリの秘所から、ぴゅっと水分が木の幹に向かって放出される。それはどんどんと勢いを増し、空気中に綺麗な水のアーチを描いた。
 ユリの足腰がガクガクと震える。しかしユリは、片足を上げての放尿を止めない。自分の腰の震えが羞恥心からくるものではなく、途轍もない開放感と達成感からくるものだと知っていたからだ。
 リョウと香澄はが静かに見守る中での、生まれて初めての「マーキング」は、尿と一緒に、ユリの理性まで放出しつつあった。膀胱から水分がなくなっていくのと同時に、思考力が段々と漂白されていくのを、ユリ自身が感じている。
 それは、脇で見ているリョウと香澄も感じ取れた。舌を突き出すように呼吸を荒げるユリは、明らかに性的な快感を、この放尿で得ているのだ。
 そして、尿道から最後の一滴が出て行くのと同時に、ユリの思考が一瞬、完全に真っ白になる。


「あ、ああああああ……っ」


 地に付けられた左足の先がビンと伸び、上げられた右足がビクンビクンと震えから痙攣に変わる。首筋が引き攣りそうになるほど頭を上に向けて、途方もない開放感と満足感と快楽とに震えながら、ユリはリョウに視線を送った。自分の飼い主がしっかりとペットの用を見ているのを確認して、もう一度軽い絶頂に身体を震わせてから、全てを終えたのである。

 呼吸を荒くしながら右足を下ろし、暫く呼吸を整えているユリに、リョウはそっと近づいて、その頭を撫でてやった。


「よく頑張ったな」


「えへへへへ……」


 ユリは恥ずかしそうに微笑みつつ、膝立ちのままリョウのズボンに頬ずりをした。
 恐らくユリに尻尾が生えていたら、元気良くそれを振って見せたろう。それほどの甘えようだった。