Act.2-22 Glass heart [1]
KEEF


 ユリをソファに寝かせた後、それまでの淫らな喧騒が嘘のように静かな午後を迎えている。
 リョウはバルコニーの広いウッドデッキに揺り椅子を持ち出して、新聞を読みながら、その逞しい身を優雅に揺らしている。香澄は裸のまま、その脇に当然のように控えていた。

 香澄は裸のまま外に出ることに、まだ躊躇と羞恥がわずかにあったが、リョウの命令への忠誠のほうが上回った。
 香澄はユリのように、リョウの命令こそが自分の真実、というところまでは、まだ割り切れていない。彼の命令に対して羞恥心など余計な思考を働かせているのが、その証拠であろう。
 だが、ただひたすらに淫猥であれば良いか、と言えば、そうでもないところが難しいところだった。香澄の飼い主であるリョウは、香澄やユリに、淫乱さと同時に、ある程度の理性も求めている。簡潔にいえば、忠実なメス犬であれば良し、淫乱なだけのメス豚はいらない、ということだ。

 このあたりを意識して線引きすることは、香澄にはまだ難しい。リョウが与えてくれる淫らな快楽の流れは、香澄に抵抗できるものではないからだ。すぐに理性や意識を流され、ひたすら調教を求める淫乱なマゾとしての「地」が顔を出してしまう。
 香澄は同年代の女の子に比べれば、厳しい躾の中で育てられた。香澄にとって面倒なものでしかなかったそれらも、今にして思えばありがたい。それがなければ、調教が行われていない日常まで淫らな「地」が自分を侵食していただろう事は、香澄の中では疑いの無い事実となっている。

 ユリなどは、リョウとの付き合いが圧倒的に長いせいか、それともそれが「地」であるのか、ごくナチュラルにリョウの求めるものを満たしている。香澄にとっては、感心するやら鬱陶しいやら、複雑なところだった。
 もっとも、それをハンデと感じているようでは、いつまで経ってもユリに対してアドバンテージを握ることはできない。間違ってもユリを蹴落としてリョウの愛を独り占めしようなどとは、香澄は思わない。ユリよりもちょっとだけ激しく、自分を辱めて欲しいだけである。
 ただ、それをあからさまに求めすぎては、淫乱なだけのメス豚になってしまう。リョウの調教に耐えながら、ちょっとずつ自分の快楽のポイントを、彼に理解させていく。その辺りの調整、あるいは芝居が、これからの香澄に求められるものだった。香澄には、そのように器用な真似は、まだまだ難しいが……。

 静かな風が流れ、香澄の長い髪と、家の前に広がる草原を思わせる草の海を揺らしている。香澄は、そっと浮き上がる自分の髪を押さえた。
 香澄の白い素肌を撫でる風は、信じられぬくらい気持ちの良いものだった。春でも夏でもない、微妙な季節の変り目。それが、子供から 大人へと変わっていく、ちょうど途上にいる香澄の琴線に触れたのかもしれない。
 リョウの性奴隷にならなければ、こういう感覚も一生知る機会は無かったに違いない。それを自分で気付くのも、不思議な感覚であった。淫らなメス犬であるにしても、香澄はまだまだ仔犬であった。
 もう少し、昼食には早い。
 リョウは昼食はユリが目覚めてからにしよう、と言ったが、肝心のユリはリョウの激しい責めを受けて、失神こそしなかったものの、今は幸せそうな寝息をソファの上でたてている。失神したのと、結果的は同じことになっていた。

(いたずら書きをしたくなるような寝顔、というのは、こういうのを言うんだろうな)

 と、香澄はその、性奴隷の幸福を満面に散りばめたユリの寝顔を見下ろしながら、自分が マジックを持っていないことを後悔した。ユリにとっては、ささやかな幸福であったに違いない。
 リョウがバルコニーに出てから、香澄はその側をひと時も離れない。もっとも、リョウは香澄の首輪から伸びるリードを椅子の手すりにくくりつけており、香澄は動きたくても、リョウの現在位置から半径一メートル以上は動けないのであるが。

 性奴隷として調教されつつある香澄にとっては、リョウの姿を至近に見ているだけで一種の幸福感を覚える。だが、頭で思い描く幸福感と、肉体の満足感が必ずしも一致するとは限らない。そして、ひときわその乖離が激しいのが、性奴隷という人種なのかもしれない。

 香澄自身が驚いたことに、この心地よい涼しさの中でも、香澄の身体は熱さを持ち始めている。それは、自分の飼い主の顔を視覚に映し続けていることで、次なる調教への期待感が浮かぶためだ。スパンキングで軽くイかされるだけでは満足できないほどに、香澄の身体は短期間で開発されつつあった。
 だが、この身体の熱さ、特に下半身の熱さは、それだけではないだろう、と香澄は思っている。香澄にはわかっているのだ。その熱さの原因。

 今日はまだリョウから、性奴隷としてトドメを刺されていないのである。
 つまり、香澄は今日はまだ一度も、子宮にリョウの精液を注がれていないのだ。
 香澄の下半身の熱さは、飼い主の精液を求める渇望の熱だった。

 それを意識すると、子宮の熱は一段と熱くなった。香澄は立ったまま足をもぞもぞと内股気味にこすり合わせながら、リョウの股間に目を向ける。ジーンズに包まれたその巨根は、大人しく寝静まっている。
 香澄は意外さと驚きとを、同時に心に浮かべた。朝から二人の性奴隷を屋外で思い切り辱め、先ほどは自分をパドルで打ち据え、自分の妹をアナルで絶叫させたが、それだけでは、この若い無敵の龍を興奮させえることはできなかったのだろうか。

 香澄の記憶が確かならば、リョウは今日、朝に香澄に精液を飲ませただけで、それから一度も射精していない。
 我慢しているのだろうか? だが、そうする理由が香澄には分からない。リョウの普段の絶倫ぶりは凄まじく、淫乱なユリと香澄の二人のマゾを抱えてまだ余裕を見せるほどだ。午前中だけで、ユリと香澄の子宮に二発ずつ打ち込むことも珍しくない。
 もしも我慢しているのだとしたら、それは香澄としては残念なことだった。性奴隷は、主人の性欲の処理のために使ってもらわなければ、存在の意味が無い。
 メス犬は、快楽を与えられるだけではいけない。それでは一方通行だ。飼い主の欲望の全てを受け止めることこそが、その存在意義である。そうすることで、初めて二人で悦楽を分かち合える。

 要するに、香澄は自分が使ってもらえないことに、不安になっているのだった。
 そして香澄のその想いを、むしろリョウの方が良く理解している。香澄をそういう不安に追い込むことも、調教の一環であった。もっとも、わずか半日で効果が出るとは、リョウも思ってはいないが……。
 不意に、リョウの指が香澄の秘所に突きこまれた。

「んくっ!」

 ぼうっと思慮の泉につかっていた香澄にとっては全くの不意打ちで、いきなり空想の世界からメス犬の現実へと引き戻される。だが、思慮の内容が内容であったから、香澄のそこは、すでに淫らな愛液にうっすらと濡れてており、飼い主の指をスムーズに受け入れた。

「あ、あっ、んっ、ご、ご主人様ぁ……」

 リョウの指は、容赦なく香澄の弱点を責めまくる。
 それに素直すぎるほどに反応する香澄のあえぎ声は、普段の格闘家としての彼女しか知らぬ者にとっては、信じられぬものだろう。
 香澄がリョウにしか聞かせない声。そして、リョウにしか香澄に出させることができない声である。
 リョウにとっては片手間の手悪さの類だが、香澄にとっては快楽の源泉だった。リョウの腕にしがみつき、身体を桜色に染めて、くねくねと淫らに震わせる。呼吸が乱れ、足をすり合わせながらも、与えられる快楽に素直に流された。
 リョウは無言のまま、香澄に止めをさした。その最も弱い部分を、指先で抉ったのだ。

「……ッ! イクッ、イきます……ッ!」

 プシャッ、と音がもれた。
 香澄の秘所が、豪快に潮を撒き散らし、リョウの指と、彼の座る椅子を濡らした。潮とともに流れ出る愛液が、香澄の下半身全体をびしょ濡れした。
 ビクン、ビクン、と身体を大きく震わせながら、香澄はその場にへたり込む。荒くなる一方の呼吸と鼓動は、だが満足感に満たされている。

 リョウは、いつでもどこでも、香澄を辱めることができるのである。そして香澄は、それに逆らうことができないのだった。
 自分が完全にリョウ・サカザキという存在の支配下にあることを、香澄は改めて実感する。その被虐の喜びをかみ締めながら、香澄はリョウが無言のまま眼前に突き出した指に舌を這わせた。自分を「辱めてくれた」指を、自分の舌で掃除するのも、性奴隷の仕事なのである。

 16歳の少女を辱めた直後とは思えぬほどの静寂をその眼に湛え、リョウは立ち上がった。そして、未だに立ち上がれぬ香澄を見下ろして言った。

「そろそろユリが目覚めてもいい頃だ。昼食にしようか」