この場の幸福な空気の中で、一人憂鬱なものを抱え込んでしまった代償か、それとも単に裸でいたせいで腹が冷えてしまったのか。
 香澄は不意に、自分がのっぴきならない状態になっていることを理解した。彼女は急に、「尿意」を催してしまったのだ。


Act.2-24 Exit Wounds [1]
KEEF


「あの……」

 香澄はおそるおそる、静かにしているリョウに話しかける。二人の世界に入り込むには、香澄には勇気が要ることだった。
 振り向いたリョウの表情に、香澄を非難する要素は無い。だが「どうした?」と、その眼が語っていた。

 香澄は、もじもじと足をすり合わせながらしばらく黙っていたが、いつまでもそうしているわけにもいかない。香澄は今、首輪とリードを樹にくくりつけられており、飼い主の許可が無いと、トイレにいくどころか、この場から離れることすらできないのだった。
 その拘束は、普段の香澄には心地よい被虐感をもたらしてくれるが、それも状況によるようであった。健全な忠誠は、健全な状態があってのものだと、つくづく思い知らされる。

「どうしたんだ、香澄?」

 心配そうな声で、リョウが問う。
 香澄はユリのように、男性に対して「おしっこ」と声にすることには抵抗があるのか、ややうつむき加減にもごもごと口元を動かした後、ようやく、

「あの、おトイレに、行かせてください……」

 と、ようやく口にした。
 ユリはリョウが兄ということもあり、存在が身近な気楽さもあるが、香澄にはその気楽さがどうしても一線を越えられない。
 普段、リョウに対して淫乱な面を散々引き出されて置きながら、いまさら遠慮も無いようにも思われるが、香澄にとってはまだ、快楽と排泄とは別の問題だった。

 果たして、その香澄の心境の全てを理解していたかどうかは怪しいが、リョウは少し考えるような顔をした後、香澄が最も恐れていたことを言った。

「香澄、さっきユリがしたように。お前も、できるな?」

 香澄の顔から血の気が引いた。その音が聞こえた気もした。
 さっきユリがしたように。犬のように放尿してみろ、と、彼女の飼い主は言った。香澄の選択肢に、飼い主に対して逆らうという要素は存在しない。問題は逆らうか逆らわぬか、ではなく、できるかできないか、であった。
 もちろん、ペットにとって主人の言葉は絶対である。言われた以上は、しなくてはならない。

 香澄は泣きそうな表情になりながらも、健気に命令には従おうとした。
 膝立ちの四つん這いになり、右足を上げようとする。だが、頭のどこかで、性のペットと本物のペットは違う、という区別をしてしまっているのか、それともただの羞恥心か、膝が少し浮くだけで、どうしても足が上がらなかった。

 そして、足を上げようとして上がらないまま時間だけが過ぎ、羞恥心を突破する前に、香澄の膀胱が先に音を上げてしまった。
 香澄は膝立ちの四つん這いのまま、少し膝を開いて上半身を突っ伏してしまったポーズで「放尿」してしまったのである。

「あ、ああ……、見ないで……ください……」

 消え入りそうな声で香澄は言ったが、その「放水」は止まらない。尻を突き上げる形で尿道からおしっこを噴出す。それは、香澄の左右の足を伝うものと、直接地面に落ちるものと、三つの水の筋となって流れ続けた。

「あ、あ………」

 羞恥心で頭を満たして身体を震わせながらも、ようやく香澄の放尿は終わった。時間にしてみれば一分程度のものだったろうが、香澄にとっては何倍もの長さの時間だった。
 直接、身体を痛めつけられることを快感に転化することはできても、精神的に辱められることを快感に転化することは、香澄にはむいていない。このあたりは、まるでユリとは正反対であった。
 放尿を終えた香澄は呼吸を乱し、しばらく尻を突き上げて震わせた後、ぺたんと突っ伏した。

「よく頑張ったな、香澄」

 リョウが、優しく声をかけながら、その頭を撫でてやる。今は、犯しぬかれるよりも、思い切り甘えて頬ずりでもしたかった。香澄は、もっと褒めてもらいたかったのだ。
 リョウは突っ伏してしまった香澄の頭を撫で続けながら、ユリのほうに向いた。ユリも起き上がって、香澄の痴態を最初から最後まで見ていたのだ。
 そのもう一人のペットに、リョウは命令した。

「ユリ、見本を見せてやれ」

「はぁい

 ユリのほうはリョウに命令されたことがうれしいのか、やや頬を上気させてから頷いた。 そして、まるでリョウと香澄に自分の秘所とアナルを見せるように後ろを向いて、四つん這いになる。
 それは、香澄の膝立ちの四つん這いとは違い、膝を伸ばし、手のひらと足の裏だけを地面につけている四つん這いである。そしてゆっくりと、だが躊躇なく左足を伸ばしてあげた。

「ちゃんと、見ててくれなきゃ嫌だよ、お兄ちゃん……」

「ああ、しっかり見てるぞ、お前の一番恥ずかしいところをな」

「あ……ッ」

 一瞬、ユリの上げていないほうの右足が、ガクッと崩れかけた。
 ぼうっとながら見ていた香澄にはわかる。ユリは、リョウのひとことでイッてしまったのだ。

 だが、ユリは体制を崩すことなく持ち直しすと、「それ」を始めた。ユリの秘所から、小水がためらいの無いアーチとなって、標的となった樹の根元に放たれる。

「ん……はあ……」

 リョウも香澄も声を発しない。ただ、ユリの悩ましげなため息と、その小水が樹の根元に注がれる音だけが響いている。完璧と言っていい「マーキング」である。
 その間、ユリの身体は何度か震えた。軽くではあるが、ユリはおしっこをしながら、何度かイッいる。香澄の目から見てもそれは、とてつもなく卑猥なものだった。
 そして、四つん這いのまま片足を上げて放尿するその姿こそが、リョウの命令に忠実に従った姿であることも、香澄にはよくわかっている。それが、自分にはできなかったことも。

「ん……ッ」

 ユリの秘所から、小水のアーチが止んだ。ユリは軽く腰を上下に振って、水気を切る仕草をすると脚を下ろし、四つん這いのまま振り返ってリョウに擦り寄った。
 リョウは香澄の頭を撫でながら、ユリの頭も撫でてやる。二匹のメス犬は樹に繋がれたまま、同時に頭を撫でてもらいながらも、その心境をやや異にしていた。

 しばらく座って二人の頭を撫でていたリョウは、おもむろに立ち上がると、香澄を楽にさせ、ユリをその場に正座させた。とりあえず従いはしたが、二人にはリョウのせんとすることがよくわからない。

「香澄、お前へのご褒美はちょっとだけ待て。上手くできたユリの方からだ」

 言ってズボンのジッパーを下げると、ペニスをユリの眼前に取り出した。フェラチオでもさせてもらえるのかと、ユリが表情に期待を満たしたが、そのペニスの先はユリの口ではなく、腹のほうを向いている。
 ぼんやりと、何が起こるのかわからず、状況を見守っているユリと香澄の全ての予想を裏切ることを、彼女らの飼い主はした。
 リョウは先ほどまでの二人と同じことをしたのである。違っていたのは、ユリは樹におしっこをかけたが、リョウは自分の妹にそれをかけたのだった。

「あ……あ……」

 ユリの腹に、暖かい液体がかけられている。最初の一瞬、自分が何をされているのかわからなかったユリだが、次の瞬間にそれを理解して、鼓動を飛び跳ねさせた。
 息が荒くなり、ユリの目がトロンと下がる。おしっこをかけられて興奮している自分が、そこにはいた。これだけ好きに扱われる「快感」。

「んぅっ!」

 ユリが一言あえぎ、その腰が思い切り浮いた。腹から腰を伝う飼い主の小水に、自分の秘所からあふれ出た別の液体が混じる。信じられぬくらい大きな絶頂に襲われた。
 リョウの小水は、腹から胸へと上がってきた。このあとどうなるか、ユリは理解していた。ユリは、淫猥な光を浮かべた目で、リョウを見上げる。リョウは軽く頷いた。それだけで、ユリは全てを理解した。

 ユリの口が、ゆっくりと開く。リョウのおしっこは、待っていたかのように、「そこ」に流し込まれた。香澄は、目の前で起こっている出来事を、呆然と眺めているだけだ。
 口に流し込まれる小水の大半は勢いで周囲に散ったが、わずかにユリの咽喉が動いているのを、香澄は見逃していない。ユリは、「飲んでいた」のだ。
 その認識も、次の一瞬までだった。
 ユリは何かに突き動かされるかのように前に乗り出すと、リョウのペニスをその手でつかむ。そして、水道の蛇口から直接、水を飲むように、その尿道から直接、兄の小水を飲み始めたのだ。
 ごくりごくりと、まるで空手の訓練が終わった後にスポーツドリンクを一気飲みするような感覚で、ユリはリョウの小水を飲み干していく。香澄には、そうとしか見えない。
 実際のところ、ユリは自分でも何をしているのか、良く理解していない。ほとんどイキッぱなしの状況で、ひたすら性奴隷の本能のままに行動している。
 そして、リョウの小水が止まると、尿道から残りの液体を吸い取るように、ペニスに吸い付いた。それはフェラチオの直後に精液をむさぼるのと同じ行動だった。

「おいおい、もう出ないぞ、ユリ」

 すっかり正気を失い、ひたすらペニスに吸い付く妹を起き上がらせると、リョウはその口にそっとキスをした。それがスイッチとなったのか、ユリの身体ががくんと堕ちる。それまでの盛大な絶頂の余韻が一気に来たかのように、ユリは失神していた。