今日の敵も思いのほか強かった。今日の闘いを終えたリョウは、粗末ながらも住めば都のアパートのドアを開けた。
そして、バイクのキーを壁にむけ放り投げる。吸い込まれるようにキーは壁のホルダーに引っかかり、彼の主人同様、今日の仕事を終えた。
「ただいま」
空手道着の裾を正し、声と帯とを若干緩め、リョウがキッチンに向けて声をかける。ぴょこんと顔を見せたのは、彼の愛する、そして彼を愛してくれる愛くるしい妹だった。
「おかえり、すぐごはんできるよ」
いつも対戦相手の鋼鉄の肉体を殴っているリョウの手は、それを知る者なら信じられないような柔らかな動きで、妹の頭を撫でてやる。そしてそれに反応して妹ユリは愛する兄に身体を預ける。これがこの二人の、最近の夕方のルーティーンだった。
もちろん、お互いに聞きたいことはたくさんある。勉強はできたか、学校はどうだったか、相手は強かったか、ケガはしなかったか。
でも、聞かない。まず、相手の存在を、次に愛を無言で確認する。リョウが負けるはずはない。ユリは学校では優等生だ。そのことはお互いに常識だ。
だから、最初には聞かない。
「ご飯にする?」
「いや、今日はちょっと疲れたからさきにシャワーにするよ」
リョウの手が自分の頭から離れるのを残念な視線で見送りながらも、ユリはリョウの為にバスタオルを用意する。
そう、今日の相手は思いのほか強かった。いや、今日だけではない、最近、ストリートファイターたちのレベル全体が上がっている。
苦戦をしたわけではないが、今日も意外に粘られた。本当は、もっと圧倒的に勝てる目算だった。
ファイターたちが強くなっている理由、そして彼らの血の温度が上がっている理由。
リョウにとっては一目瞭然だ。
「……ジャックとキングの抗争がいよいよ近い……」
街の裏の顔がいま、一斉にこの二人を追いかけている。
もとよりジャックとキングの関係は良好とは言い難い。サウスタウンを根城にするバイカー集団のブラックキャッツが、飛ぶ鳥を落とす勢いで巨大化していくキングの新興グループに好意的な視線を向けるはずもなく、この二人は最初から対立することを運命づけられている。
ジャックの存在感は、見た目通りの巨大なハンマーだ。ただひとたび振られるだけで大地を揺るがし、全てを叩き潰す。それに対し、キングは歴戦の切れ味を誇る刀剣だ。ただ人を斬るためだけに存在する、ソリッドかつクレバーな、極めて危険なそれは刀剣だ。
この二人は、生まれたときから相容れようがない存在なのだ。それがひょんなことから、この大都市でばったり出会ってしまった。リョウは運命などというものを信じていないので、その出会いを完全な偶然で片づけてしまえるが、それはリョウが人並外れて強いからである。
リョウほどの強さも信念も持たない者たち、特に裏社会に片足をつっこみつつ生活している者たちは、今やこの二人から目を離せないでいる。どちらが勝つかを賢明に選ばなければ、明日の喰いぶちがなくなるかもしれないのだ。
つくづく、小は大に必死に寄り添わなければならない。
「…………」
ただ、リョウはこの二人の抗争に、彼ら以外の悪意の存在を疑っていた。自分と同様、いや、自分以上の様々な強さを持ち、自分の力で自分の未来を選択できる立場の男。
一言で言うなら、この街――サウスタウンにおける悪意の権化だ。リョウとの関係は薄いとは言い難い。
リョウはその男と直接闘ったことはない。その男がそれをする必要がないからだ。たびたび顔を合わせたことがある程度の関係だが、リョウはその男のことを徹底的に疑って口車に乗らなかったし、その男は自分の言いなりにならないリョウに不満をあらわにしていた。
要は、二人ともお互いのことが嫌いだったのだ。
この裏社会の男が、果たして自分の足元で元気に暴れまわる二匹の暴徒を、可愛がるような目で見るだろうか。
残念ながら、答えは「No」だろう。ジャックとキングの抗争に、必ず何らかの形で介入してくる。
リョウは無関係に徹するつもりではあるが、周囲がそう簡単に諦めてくれないだろうことも、自分でなんとなく感じ取っていた。
今日も、バイクでの帰路を数キロにわたって二台のバイクに追跡された。どこの手のものかは分からない。可能性を考えればキリがない。
リョウは自分がそういう性質でないことを理解しつつ、冷静に状況を見なければならないかもしれなかった。
と、その時、リョウの頭からばさりと何かがかけられて、リョウの意識が思考の淵から戻ってきた。バスタオルだ。
ふと肩越しに後ろを見ると、なぜか全裸の上からバスタオルを体に巻き付けたユリが、兄を見上げている。
なにか分かった風なその視線に、リョウは少しだけ否定的な顔した。気にもせず、ユリが兄の隣に歩み寄る。
「難しそうな顔をして、どうせ難しいことを考えてたんでしょ」
さりげなく言いながら、バスルームのドアを開け、ユリはリョウを振り返った。
「私に分からないことだろうから、無理に聞かない。でも、家に帰ってきたら笑顔でいてほしいな」
不満そうな顔をして、ユリはリョウの鼻をかるくつまんで見せた。
それを優しく振り払い、リョウが道着のままバスタオルを肩にかける。
リョウはそこで初めて、ユリが裸でいたことに気づいたようである。まだ豊満とは言えない妹のバスタオル姿を見て、不思議そうな顔をした。
「どうしてお前まで脱いでるんだ」
「いっしょにシャワーするから」
「考え事がしたいんだけど」
「今日はダメ、というか、ここではダメ」
「……今日はいつになくごきげん斜めだな」
「お兄ちゃんが私以外のことを考えてるからに決まってるでしょ」
「……」
怒りと呆れの成分をふんだんにまぶして、ユリがシャワールームのドアを開ける。その時、妹の背中を見ていたリョウが、その体を包むバスタオルのはしに少し指をひっかけ、すっと下にずらした。
ちょっとした気分転換のいたずら心だった。しかしその効果は素晴らしく、まるで空気抵抗などないかのように、バスタオルはユリの離れ、地面に落下した。
「わぁ!」
ユリが一瞬胸を両手をクロスさせて隠して、肩越しに兄を睨む。
「ちょっと、なにするの!」
と、言いかけたところを、リョウが不意を突いた。ユリの肩を軽くつかみ、その身体を自分の正面にくるりと回転させると、何の前触れもなく唇を重ねた。
ユリはなにかを言いたかったに違いないが、リョウの行動が先んじた。ユリも、リョウが強引に自分を求めるのは珍しいことなので、不意を突かれた。
完全に思考と言葉を失い、一瞬だがそのすべてをリョウに委ねてしまった。
数秒、そのまま硬直していたが、リョウがゆっくりとユリから離れた。ユリは、自分が顔を真っ赤に染めていることを理解していたが、それでも最後の抵抗で、
「……バカ」
と呟いた。
数秒、湿度の高いキスが続いたあと、リョウの右手が本来の目的のために動き出した。
彼がユリに暴力を働くことは決してない。ユリがそう切望しても、リョウは決して実行には移さないだろう。例え明日世界が終わるとしても。
ただ、暴力と言う言葉の範疇から「強引」という栞が飛び出ると、意味が少し異なってくる。
ユリは兄と身体を重ねるようになってから、それまでリョウが知らなかった様々な一面を見せてくれている。リョウにとっては驚くことでもあり、可愛くもあり、新たな一面の発見が楽しみでもあるのだが、そのなかに、どうも「ユリが強引な攻めに、極端に弱いのではないか」という疑惑がある。
これはリョウがユリの身体を傷つけないように、普段の剛腕を封印して彼ができる限界の優しさで妹の身体を愛しているのであるが、ほんのまれに、ユリが物足りなさを見せることがあるのだ。
決して口には出さない。ユリが兄の愛撫やセックスに文句を言うことは決してない。例え今夜、地球が滅ぶとしても。
だが、心情(こころ)と肉体(からだ)は別物である。そしてそれをリョウはよく知っていた。
戦意は旺盛だが、ケガが原因で戦えないファイター、一つのけがもないのに勇気と戦意がなくて挑戦を拒むファイター。色々な相手を見てきた。
リョウはそういう世界の住人であり、そういう目で相手を見分けることができる、ある程度の眼力をすでに持っているのである。
そして、ユリの意識の外の「齟齬」を、リョウは見逃していなかった。
再び妹の唇を自分の口でふさぐと、右手の中指を、ゆっくりとユリの秘所に忍び込ませた。
「ごめん、ユリ、ちょっと熱くなってる。スピード上げるからな」
ユリは一瞬、驚いた顔をしたが、すぐに意地の悪い笑顔を見せた。滅多にそんなことを言わない兄への期待もあったのだろう。
「いやん、えっちー」
だが、そんな余裕もすぐに吹き飛んだ。リョウに左手で抱きしめられたユリの身体は、すぐに右手でGスポットを掘りあてられた。ユリの体の全てを知っているわけではないが、それでも人よりは多くの弱点をリョウは知っているはずである。
上下左右に細かく動くこと、わずか数回。
「え? え? うそ! い、イクッ!」
ユリの身体が少し跳ねた。本人も予想だにしなかった絶頂が、あまりに早く訪れた。だが、ユリの神経網はその快楽を一度流すだけでは終わらなかった。
リョウは左手でしっかりと身体をささえ、右手の力強いストライドが、確実にユリのGスポットとその周囲を、効果的に撫でまわし、掘り起こし、かき回した。
ユリはリョウとのセックスで失神したことがないわけではない。それどころか、リョウから与えられる快感が強すぎて、ほぼ毎回、リョウが自分の中に精を放つ前に絶頂して失神してしまい、それが(本人には言わないが)大きなコンプレックスにもなっていた。
ユリにはリョウの意図が分からなかったが、確実に絶頂の回数を重ねさせられた。本人にとって初体験となった「潮吹き」は四回目の絶頂だった。本人は足に力が入らなくなりおしっこが漏れてしまったと思ったが、実際には性的興奮の発露だった。
「と、とめ、イク、お兄ちゃん、イグッ、イグッッ」
兄による抱擁と強制的に与えられる絶頂に、力なく両手を自分を支えるリョウの左手に添えてみたが、どうやら逆効果だった。
リョウが強引にユリの唇をふさぎ、そして最後の一手に出た。ほんのりと桜色をした、おそらくユリの最大の弱点であろう、小さく勃起した突起を、リョウがやや力を込めてつまんだのである。
つまむ力のことをピンチ力というが、さすがに格闘家のピンチ力で妹のクリトリスをつぶすわけにもいかず、リョウは戦々恐々としながら少しだけ力をこめ、優しく愛撫し、また力を込めた。
「んーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
妹の股間が、二回目の決壊を興した。二度目の潮吹き。しかしこの時、もうユリに意識は残っていなかった。九回目の絶頂が、ユリの快楽の門と意識の門を弾き飛ばしたのだった。
自分の腕の中でぐったりと意識を失ったユリを優しくなでてやると、ゆっくりとバスタブに妹の身体を寝かせてやり、少しずつシャワーを出し始めた。
ユリの意識が戻ったのは二十分ほど経ってからだった。兄と二人で小さな湯を張ったバスタブにつかり、兄のたくましい胸に頭を預けて眠っていた。
「こうして、可愛い可愛いユリちゃんは、お兄ちゃんの強引さの前に散ったのであった」
顔をそむけたまま呆れたように言うユリに、
「嫌だったら二度とやらないが?」
と半ば分かったうえでリョウがからかい半分に言うと、
「……嫌じゃないから、またしてほしい。ところで……」
ユリがばッと振り返ってリョウと視線を合わせる。途端に顔が一気に真っ赤になる。兄の前で二度も放尿してしまったと思っているから、リョウの目を見るのも恥ずかしくてたまらなかったが、それ以上に言いたいことがあった。
「お兄ちゃん」
「うん?」
「……大きくなってきてるんだけど……」
リョウは胡坐をかいたまま無言でユリを抱え上げると、何がとは言わせず、湯の中で天を向いて屹立したペニスで、一気にユリの秘所を貫いた。
そして、ユリの両胸を優しく揉み、乳首を愛撫しながら、腰だけで妹を突き上げる。
目が覚めたばかりのユリの声はすでに悲鳴に近くなり、またすぐに意識が飛ぶかと思われたが、リョウはユリの身体をバスタブの淵にあずけ、細く引き締まったウェストを掴むと、ゆっくり、ゆっくりと前後させる。
「ああ、はひ、ひぃ」
ユリも兄の意図を受け取って、なんとかリョウが射精するまではなんとか意識を保ちたかった。
この世で最も愛に溢れた七分の往復運動。リョウの精液が勢いよく自分の子宮を突き上げながら満たしていくのを感じながら、ユリは今夜十数回目の絶頂を心地よく感じていた。
全てが幸せの象徴だった。何も知らないユリにとっては。